エルダー2019年12月号
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出が義務づけられており(労働安全衛生法100条および同法施行規則97条)、当該報告を行うことなく、いわゆる「労災隠し」を行った事業主に対しては、罰金50万円以下という刑罰も用意されています(労働安全衛生法120条)。労災保険給付の当事者2労災保険給付を請求する当事者は、労働者自身であり、使用者である会社ではありません。労災保険法施行規則23条第2項は、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」と定めており、会社は当該労災保険給付に必要な証明に協力する立場となります。ケガをした労働者は、労働基準監督署宛てに、所定の書式を提出することになりますが、当該書式には、会社の労働保険番号の記載や「災害の原因及び発生状況」などに関する事業主の証明欄への記名押印が求められているため、会社へ協力を求めてくることになります。この際、労働災害としての申告をされて、労災保険が給付された場合(労働災害が存在すると労働基準監督署に認められた場合)には、労働基準監督署の調査を受ける場合があることや、労災保険料の増額が生じる恐れがあることから、労働災害として認めることなく、労働災害としての申告をさせないために証明を避けることを考えているとのご相談を受けることがあります。しかしながら、事業主の証明を受けられなかったからといって、労働者による労災保険の請求が認められなくなるわけではありません。また、仮に、労働災害としての手続きに協力しなかった場合には、労働者から、会社に対する不法行為または債務(安全配慮義務)不履行責任に基づき、直接賠償請求が行われることにもつながり、本来保険給付で賄われるはずであった補償まで、会社が負担せざるを得なくなることになります。労災保険給付と会社が負担する損害賠償責任の関係3業務上の原因によりケガが生じた場合、労災保険給付のおもな種類としては、図表のような費目があります。ケガの程度にもよりますが、後遺症(障害)が残るような重度のケガである場合には、年金や一時金などの給付も用意されています。なお、業務災害により死亡した場合には、これら以外に、葬祭料、遺族補償給付なども支給されることがあります。これらの保険給付が実施されたとしても、必ずしも会社が負担すべき損害賠償責任のすべてがカバーされるわけではありません。例えば、ケガの治療などに通院や入院期間が一定程度ある場合には、会社の負担すべき損害として入通院に関する慰謝料が認められますが、これらに対応するような保険給付はありません。後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料も会社の責任と認められることになりますが、これも保険給付によりカバーされることはありません。そのほか、休業補償もあくまでも最大で80%となっているため、会社の責に帰すべき事由が大きい場合には、その差額部分については負担しなければならない場合もあるほか、年金の方法で支給される場合には、未支給部分については、これを原則として控除しないという取扱いとなっているため、将来分については会社が負担しなければならなくなることもあります。名称主な内容療養補償給付治療費および通院費休業補償給付休業4日目以降の給付基礎日額の最大80%(特別支給金も含む)傷病補償年金治療開始後1年6カ月経過後に治癒に至っておらず、障害の程度が重い場合に支給される障害補償給付後遺症(障害)が残った場合には、障害の程度に応じて年金または一時金が支給される介護補償給付重い後遺障害により家族からの介護や介護サービスが必要となった場合に支給される図表 労災保険給付の種類※筆者作成エルダー43知っておきたい労働法AA&&Q

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