エルダー2019年12月号
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とができないと考えられています。要するに、使用者としては、年次有給休暇の取得日の変更は可能ではありますが、取得自体を妨げることができないということです。権利の性質上は、労働者による権利行使が優先される内容となっており、年次有給休暇の取得が自由に行われやすいはずですが、現実にはそうなっていません。労働の現場においては、労働者同士が相互に協働して業務遂行にあたっていることも多く、使用者に対する配慮だけではなく、労働者間相互の配慮の結果として、年次有給休暇が取得しづらい場合もあるため、たとえ、権利の性質上は自由な取得が保証されていても、その行使に至らないようなことも多いといえます。計画年休制度の活用3年次有給休暇は、本来的には、労働者からのイニシアチブによって行使されるべきものですが、労働者相互間の配慮もある結果、自由な行使を必ずしも期待できない状態も生じます。そこで、年間5日間の年次有給休暇を残す形であれば、使用者が設定する日程で年次有給休暇を取得させる計画年休制度も用意されています。この計画年休により取得させた場合は、年次有給休暇の消化義務を履行したものと評価されます。事業場の過半数労働者との労使協定が必要となりますが、集団的に年次有給休暇を取得させることで、使用者としても業務の計画を立てやすくなり、労働者同士の相互の配慮により未取得も防止することが可能となります。時季変更権が許される要件4年次有給休暇の取得に対して、使用者が時季変更権を行使できるのはどのような場合でしょうか。典型的な事例としては、労働者らによる一斉休暇の申請や、特定の業務を拒否することを目的とした場合などがあげられますが、このような事例は稀け有うでしょう。基本的には、労働者の権利行使に対して、使用者が配慮することが求められており、休暇をとる労働者がいれば、当然ながら、業務への影響は大なり小なり生じることになりますが、これに対して、使用者は、代替要員の配置や業務の割り振りの変更などによって対応できるように備えるような配慮が求められています。そのため、単に業務上の支障が生じるとか代替要員の確保ができないといった理由だけでは、年次有給休暇取得に対して時季指定を行うことはできないと考えられています。とはいえ、人員配置については、使用者による裁量の余地も広く、労使慣行と認められる程度に一定の基準によって配置が定められ、休暇の取得に関する基準ともなっているような事情がある場合には、恒常的な人員不足により取得が妨げられているような事情がないかぎりは、裁判所もそれを尊重せざるを得ないといった指摘もあるところですので、年次有給休暇取得にあたっての事前申請の時期や代替要員の確保の必要性については、運用を固めておくことは重要でしょう。また、連続的な年次有給休暇の指定は、「事業の正常な運営」に対する影響は大きくなります。例えば、1カ月間の連続休暇となるような年次有給休暇の取得を求めた事案において、判例では、事業活動の正常な運営の確保に関わる諸般の事情について、これを正確に予測することが困難であることを理由として、蓋がい然ぜん性せいに基づく裁量的な判断を許容せざるを得ないとして、使用者の判断が不合理な場合にかぎり、違法となると判断したものがあります(最高裁平成4年6月23日判決)。現実的には、労使間での事前調整の実施とともに穏当な形で落ち着いていることも多いかと思われますが、過去には、使用者から年次有給休暇の取得に対して「非常に心象が悪い」、「仕事が足りないなら仕事をあげる」などと発言して休暇の取得を妨げた事案では、慰謝料の支払いが命じられている裁判例もありますので、コミュニケーションにおいても、年次有給休暇の取得が労働者の権利であることを念頭に置く必要はあるでしょう。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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