エルダー2019年12月号
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2019.124元・厚生労働省雇用均等・児童家庭局長 元・株式会社資生堂代表取締役執行役員副社長岩田喜美枝さん 私は、人生100年を25年ずつに4分割して、25歳から75歳までの50年間は働くことを前提に人生設計を考える時代になったと考えています。75歳までの雇用を実現するためには、65歳までの現在のやり方に接ぎ木するのではなく、定年や役職定年、給与など、年齢を基準にした人事労務管理は撤廃すべきです。 働く期間が50年にもおよぶと、その全期間を一企業に勤めるモデルは、現実的なものではなくなります。私が社外取締役などとしてかかわっている企業のほとんどで、すでに1年間の採用者のうち、中途採用者が3割程度を占めるようになっています。 近い将来、新卒定期採用者を中心に人材を確保する考え方は大きく変わり、新卒者も中途採用者も同じ土俵で採用する方法が主流になるでしょう。中途採用者は通年採用ですから、新卒採用者も4月入社にかぎらず通年で行われるようになる。そして同じ土俵で採用することになれば、職務遂行能力が未知数である新卒者は、中途採用者に比べて苦戦を余儀なくされると思います。 個人の側から見ると、75歳まで働くことを前提とすれば、途中で企業を変わるのはあたり前になりますから、ほかの企業でも通用するような能力を身につけるために、または75歳から後の人生を心豊かに過ごすために、75歳までの間に学び直しの機会を持つことも大切です。―働く女性も高齢化していきます。岩田 男性は50代になると企業での立場も先が見えて、くたびれてしまいがちですが、50代の女性は不完全燃焼感を持つ人が多い。9月に公表された21世紀職業財団の調査※3でも、そのような特徴が浮き彫りにされています。女性は、働きがいのある仕事にめぐりあえないまま50代を迎えることが少なくありません。50代になれば、もう子どもは自立して、これからはもっと自由に働けると意欲を燃やしています。この先、始まりも終わりも予測できない親の介護の問題が潜在的にはありますが、それが現実のものとなっても、身近な人と協力し、社会的サービスを上手に使って条件を整えることができれば、彼女たちの高いモチベーションを、企業も社会も大いに活かすことができるはずです。―その高いモチベーションを活かすには、新たなステージへの能力開発が必要ですね。岩田 企業は50代・60代の女性に対し、これまでは教育を十分にしていませんでした。いまからでも、仕事を通じて育成してほしいと思います。人が成長するのに年齢は関係ありません。何を始めるにせよ、遅すぎることはないのです。 人生は1回かぎりですが、やりたいことは複数あるはずです。仕事か家庭かという二者択一のシングルトラックではなく、仕事、家庭、学習、趣味、社会貢献活動などマルチで考えてほしい。そうでなければ、人生100年を持ちこたえられません。90歳を過ぎても世の中の役に立っているロールモデルとなる人は多くいます。何歳になっても自分が役に立つ場所があるのは大切なことです。高いモチベーションを活かすべくシニアの女性に能力開発の機会を(聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一、撮影/中岡泰博)※3  公益財団法人21世紀職業財団「~均等法第一世代が活躍するために~女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査―男女比較の視点から―(2019年度)」

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