エルダー2020年1月号
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かぎられた人の役割になってしまうのです。(2)環境の問題職人的な技術が求められる職場や、特殊な製造機械を扱う職場を除き、専門性の陳腐化が加速しています。このような状況において、経験重視の育成は機能しなくなってきています。しかし、これをもって高齢社員は育成をになえないということではありません。経験そのものを伝える形での育成が機能しなくなってきているということで、逆に経験から学んでいくプロセスや、変化に対応していくプロセスを伝えることが一層重要になっています。(3)マインドセットの問題旧来型の育成が機能しなくなっているなか、高齢社員の人材育成に対してのマインドセッのハイディ・グラント・ハルバーソンは“証明型のマインドセット”と“成長型のマインドセット”という二つのタイプを提示しています※2。“証明型のマインドセット”とは、自分の仕事を通じて自己の優秀性を証明したいという思いが行動の源泉になっているタイプの人です。一方、“成長型のマインドセット”とは、自分の仕事を通じて成長したいという思いが行動の源泉になっているタイプの人です。「自分が持っているノウハウを後輩に伝授しト※1転換が必要になっています。コロンビア大学てください」という育成の概念は、どうしても自分の優秀性を証明するという方向性に意識が引っ張られる傾向が強くなってしまいます。しかし、高齢社員を人材育成で活かすためには、そのプロセスで、「自身もまだまだ成長していこう」という成長型のマインドセットを持ち続けられるような支援が必要になっていくのです。高齢社員の手腕を育成に活かしていくには、旧来型の育成概念を払拭していく必要があります。「一緒に学ぶ」、「若手だけでなく、高齢社員も一緒に成長していこう」という概念を表現する言葉として「共育」という考えを提示したいと思います。今後、高齢社員が活躍する人材育成は、何かを教える、伝えることに力点を置くものではなく、ともに仕事に伴走しながら一緒に成長していくというあり方が重要かつ効果的になっていきます。このスタイルでの高齢社員の役割は、若手の内省を支援したり、相談役になったり、また先輩社員として成長・挑戦し続ける姿を見せることです。このような高齢社員のあり方や関係性を生み出せると、お互いへのリスペクトや共感が生まれ、職場全体の好循環をつくり出すことができるのです。つの視点での改革が必要になります。具体的には図表1となります。ではそれぞれの視点について整理していきます。(1)期待役割の改革高齢社員を人材育成で活かしていくには、五多くの職場で高齢社員への期待役割が曖あ昧まな高齢社員の手腕が育成に活きる「共育」高齢社員を活かすための五つの改革いい8①期待役割筆者作成※1 マインドセット……ものごとの判断や行動に移す際に基準とする考え方※2 ハイディ・グラント・ハルバーソン(2013)『やってのける 意志力を使わずに自分を動かす』(大和書房)⑤組織風土②マネジメント④人事制度③本人の意識図表1 高齢社員を活かすための五つの改革

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