エルダー2020年1月号
28/68

キャリアを評価する三つの指標法律のなかにある、こうした自助・共助・公助を、中高年の人たちや企業が、自分のものとして考えて、キャリアを高めていけるかがますます大事になってきます。キャリアの評価には、大きく分けて三つの指標があります。一つは「経済」の指標、お金です。これは、客観的にわかります。年収300万円の仕事、年収500万円の仕事といえば、イメージが湧いてきます。これに対して、「社会」の指標が二つ目です。これは、「あの人とまた仕事したいね」、「この問題だったらあの人だよね」といった評判です。そして、三つ目は「個人」の指標。これは、自分なりの納得です。これら三つの指標が重なった部分(図表3)で、私たちは自分のキャリアを「まあまあだったかな」とか、さまざまに評価をしているのです。国土交通省の「国民意識調査」(2018年)から、「仕事上の重視事項」についてみると、すなわち、「経済」の指標です。ところが、50代から70代までの1位は、すべて「仕事のやりがい」となっています。したがって、中高年にはもっと、仕事のやりがいを準備する必要があるのです。そうした職務設計、あるいは仕事配分の設計が必要な時代がやってきたということでしょう。先ほどお話ししたピアックの調査にあるように、中高年の能力は、実は思っているほど落ちていません。重要なのは、時代の変化のなかで学習をしていくこと。とりわけ、古い考え方や発想を捨てていく「学習棄却」や「アンラーニング※」を行いながら新たなことを学んでいく、こうした姿勢が大事になっています。リクルートワークス研究所が5万人に行った「全国就業実態パネル調査2018」の結果によると、20代から30代はじめくらいの世代には、仕事をやりながらのOJT、仕事を離れてのOFF-JTなどの訓練が行われているのですが、40代前半ではOJTは2割を切り、OFF-JTも軽視されています。そういう意味では中高年は、現状では自助努力をしなければきつい部分があることは事実ですが、もっと共助、公助の仕組みを高めていく必要があるのではないか。このように私は思っています。私たちはいままで、人々の能力開発といえば、もっぱら若い人を念頭に置いてきました。しかし、中高年の能力開発が、これからの日本の極めて重要な課題であり、かつ遅れている問題です。国際的にみても遅れているのです。これをどうやっていくか。日本型の新たな雇用慣行をどうつくっていくか。みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。学院政策創造研究科教授、ボローニャ大学客員教授、トレント大学客員教授、厚生労働省・労働政策審議会会長、中央労働委員会会長等を歴任。著書に『雇用政策とキャリア権─キャリア法学への模索』(弘文堂、2017年、『労働者派遣法』(三省堂、2017年[共著9年)など多数。専門は労働法、雇用政策。法政大学社会学部教授、同大学大])、『雇用と法』(放送大学教育振興会、199 ) 諏訪康雄(すわ・やすお)お金の問題(客観)納得の問題(主観)※アンラーニング……いったん学んだ知識や既存の価値観を意識的に棄て去り、新たに学び直すこと出典:筆者作成20代から40代までは「給与・賃金」が1位です。2020.126図表3 キャリアの評価をめぐる3指標評判の問題(間主観)社会の指標経済の指標個人の指標

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る