エルダー2020年1月号
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休職制度の利用と復職について療養専念義務についてくなっており、ご相談のように転職活動に至るようなケースも出てきてしまいます。職制度は、従業員のみに都合のよい制度2休であるかというと、そうではありません。休職制度は、各企業が就業規則において、ある程度自由な制度設計が可能となっていますが、多くの企業が採用しているのは、休職期間を設定する代わりに、休職期間中に復職可能な程度まで治癒しきれなかった場合には、当然に退職または解雇措置をとるという制度設計です。この場合、休職制度は、解雇の猶予措置として機能することになります。休職制度の解雇の猶予措置としての位置づけの重要性は最高裁判例にも表れており、日本ヒューレット・パッカード事件においては、「診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い」と判断しており、休職措置を取らずに実施した諭■旨■解雇の効力を否定しています(最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決)。なお、業務上の災害による休業に対しては、休業期間中および復職後30日間は解雇することは制限され(労働基準法19条)、例外的に平均賃金の1200日分の打切り補償が支給された場合にのみ解雇が可能となるなど、私傷病による休職とは取扱いが大きく異なるため、混同しないように注意が必要です。職制度自体が、就業規則で創設される制3休度であることから、休職期間中の従業員がどのような義務を負担するかについても、法律などで明確に定まっているわけではありません。一般的な考え方としては、従業員が休職制度の適用を受ける状態になれば、休職期間の満了に至るまでに復職できなければ解雇されるおそれがある状況に置かれることになります。また、企業としては、療養するための期間として休職を認め、当該期間の就労不能を不利益に取り扱わないように配慮している状況でもあります。これらの関係性から、従業員は、できるかぎり早く復職して、正常に労務提供ができるような状態に戻ることが求められており、職務に従事することに代えて、療養に専念する義務(以下、「療養専念義務」)があると考えられています。は、うつ病や不安障害といった病気に罹患していた従業員について、「主治医が会社に関与する行動をとることは禁忌である」とされていたことを前提としつつ、会社に対する抗議活動およびブログの執筆をくり返し行っていた行為に対して、療養を支援する趣旨に反する行為であり服務規律違反を問われることはやむを得ないと評価されました(東京地裁平成20年3月10日判決)。一方で、同判決は、療養の専念との関連において、オートバイでの外出、ゲームセンターや場外馬券売り場に出かけていたこと、飲酒していたことなどについては、日常生活を送ることは病気の療養と矛盾するものではないとして、問題視することはできないとしました。の種類に応じて、その治療方針と矛盾した行動をとることについては、療養専念義務違反として懲戒処分の対象とすることは可能と考えられますが、治療方針と必ずしも矛盾しない行動については、その責任を問うことはむずかしいと考えられます。特に、骨折などの外傷であり安静にすべきことが明瞭であるにもかかわらず外出しているようなケースであれば、比較的判断は容易ですが、精神的な疾患については、日常生活を送ることと治療が一例として、マガジンハウス事件において当該判決からいえることとしては、私傷病43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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