エルダー2020年1月号
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報告義務の設定について不利益処分の可否について2前述したような法律では、妊娠した女性労働者に対する報告義務を課すことについて直接禁止した規定は見あたりません。むしろ、均等法施行規則は、事業主に、妊娠中の女性労働者に対して、妊娠週数に応じた保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保する義務を負担させていますが(同則2条の3)、これは使用者が、労働者の妊娠を把握していなければ実施することは困難です。労働基準法は、妊娠中の女性労働者に関して、坑内業務の禁止(同法64条の2)、危険有害業務の禁止(同法64条の3)のほか、妊娠中の労働者が請求した場合の時間外労働、休日労働、深夜業の禁止(同法66条各項)、軽易作業への転換義務(同法65条3項)などを使用者の義務として定めています。そして、これらの義務について使用者が違反した場合には、罰則の定めまであります(同法118条1項、119条1項)。労働基準法および均等法が、事業主に対して上記のような各種の義務を負担させていることからすれば、使用者が当該義務を適切に履行するためには、女性労働者に対して、妊娠した事実の報告を求めること自体は、労働基準法および均等法の趣旨に反するものではないと考えられます。したがって、就業規則に妊娠の報告義務およびその時期を定めることが無効とはされないと考えられます。そのため、当該規定に基づき、使用者において、安定期(妊娠後5カ月から6カ月目まで)に入った時期に妊娠の報告をするよう義務づけることは可能と考えられます。しかしながら、妊娠の報告を義務づけることができたとしても、報告を怠った場合に不利益処分を行えるか否かについては、均等法が定める不利益取扱いの禁止に違反しないか否かの検討が必要となります。3均等法9条3項の定める不利益取扱いの禁止に関して、最高裁の重要な判断として広島中央保健生活協同組合(A病院)事件(最高裁一小 当該事案は、妊娠中に軽易業務への転換を求めたところ、近接した時期に降格処分を受けたため、その降格処分の無効を訴えたというものでしたが、最高裁は、「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項(筆者注:均等法9条3項)の禁止する取扱いに当たる」と判断し、妊娠中業務への転換を「契機」とした処分は、原則無効であるという判断を下しました。平成26年10月23日判決)があります。正し、妊娠したことを「契機」とした不利益処分は、原則として、妊娠したことを「理由」とした不利益処分となると解される旨の解釈を示しています。そして、契機としたか否かの判断については、妊娠と不利益処分が時間的に近接しているか否か、具体的には1年以内であるか否か、人事考課における不利益な評価や降格については最初のタイミングまでの間に行われたものか否かで判断されます。れるためには、業務上の必要性から当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合で、かつ、均等法の趣旨に反しないと認められるか、労働者の自由な意思による同意が得られるような場合にかぎられています。なお、労働者の「自由な意思」と認められるためには、一般的な労働者であれば同意するような客観的かつ合理的な理由が必要と考えられています。怠った場合であっても、妊娠と近接した時期に行う不利益処分は、その性質上、同意を得て行うようなものではないため、処分を行うことが避けがたいほどの業務上の必要性が認められるとも考えにくいため、同法に違反するものとして無効とされる可能性が高く、不利益処分は無効となるうえ、均等法に基づく指導、勧告などの対象となり得ますので注意が必要です。この判決を受けて、厚生労働省は通達を改これらの不利益取扱いの例外として認めらしたがって、妊娠中であることの報告を45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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