エルダー2020年1月号
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第6回、7回では、疲労と「食」との関係性に注目して、疲労回復に効果があると考えられる食事と栄養を紹介しました。職業生活や日常生活において疲労を抱える人に、食事と同じく目を向けていただきたいのが、仕事や生活をする際の環境です。人に癒■やしをもたらす「環境(空間)」は、さまざまな面で疲労回復にもよい影響をもたらします。そこで今回は、疲労回復に効果があると考えられる職場や住宅の環境の整備について取り上げます。ストレスを解消し、リラックスできる環境各住宅メーカーでは、環境に配慮し、安全で安心な住まいづくりに取り組んでいます。最近では、耐震性や断熱性といった住宅の基本性能に力を入れるばかりではなく、ユニバーサルデザインの採用や睡眠環境の改善などにも力を入れている住宅メーカーが増えてきています。こうしたなかで、大手住宅メーカーの積水ハウス株式会社は、現代の日本のようなストレス社会では、「住まいでリラックスすることによって疲労回復することも重要である」という考えのもと、伝統的に日本人が住み続けてきた古民家や寺院を調査し、現代の住宅においても自然や四季を楽しめるように、大きな開口や軒先、縁側を設けたリビング空間を住まいづくりに取り入れています。同社では、これを「スローリビング」と呼んでいます。同社と大阪市立大学は、共同でスローリビングに関する研究に取り組み、スローリビングと一般的なデザインのリビング(=自然を感じないリビング)について、疲労回復効果を比較検証しました。スローリビングのほうが一般的なリビングよりも、有意に疲労回復効果が高いことが明らかになりました(「疲労回復の住まい研究」より)。スローリビングは、日本の木造建築の特徴(木目調の壁など)を有しながら、自然と人造物の中間域(濡れ縁※など)を持つことでストレス解消や疲労回復に役立ち、さらにこのことによって副交感神経系の活力が上がることで、住む人の「五感を癒やす」と考えられています。つまり、リビングの大きな窓を通して、室内から庭へと自然なつながりを感じることができる開放的な空間は、そうではない空間に比べて疲労回復効果が高く、パソコン作業で精神的に疲れた状態からの疲労回復過程において、自覚的なリラックス感や癒やしを感じる度合いが高くなるのです。これは、自律神経機能と認知機能が改善され、疲労感が緩和されるからです。「スローリビング」はあくまでも一例ではありますが、こうした考え方で住環境を改善することによって、住む人の疲労回復につながることがわ国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム ※ 濡れ縁……雨戸の敷居の外側に設けられた雨ざらしの縁側2020.146プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし第8回 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。疲労回復に効果的な環境の整備科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復

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