エルダー2020年1月号
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快適な睡眠環境の整備わたなべ・やすよしかるでしょう。職場における取組みとしては、事務室を改装する際に窓を大きく取ることで屋外の自然とつながりを持たせたり、休憩スペースなどを新たに設ける際に「スローリビング」の考え方を設計に取り入れることも有効でしょう。癒やし効果がある照明の採用室内の照明は、法令に基づいた十分な照度を確保することが第一ですが、そればかりではありません。光は音や温熱などとともに、快適性向上のための重要な要素であり、照明によって癒やしや快適性がもたらされることがあります。こうした点に着目し、大手家電メーカーのシャープ株式会社は、休息時によりよい休息が取れたり、デスクワークなどの作業時に負担感を軽減させたりすることを目的に、照明の色によって室内環境の快適性を向上させる、新たなLED照明の開発に取り組んできました。その結果として開発されたのが「さくら色LED照明」です。桃色系統の色は、穏やかさや安らぎを引き出す色調であることが知られています。とくに「八重桜色」は夕焼けの色を想起させる色調であり、色彩心理学の観点からは、昼の交感神経系の優位な状態から、夜の副交感神経系優位な状態へ移行させる色ともいわれています。このような色調の心理面への影響から、これらの照明色による照明環境下での癒やしが期待できるのです。同社が行った研究結果によると、「さくら色LED照明」は、主観的な評価において、疲労感の軽減や快適感の向上が確認されました。さらに、従来のLED照明に比べて、休息に適した副交感神経系優位な方向に自律神経活動を調整することが明らかになりました。このほかにも、さくら色LED照明の効果はありますが、照明の色を工夫することによって、癒やしや疲労回復につながる効果が期待できるといえそうです。加齢とともに疲れやすくなるといわれる高齢者にとって、良質な睡眠をとることは、疲労から回復して健康を維持するために欠かすことができません。このため、毎日の睡眠の量や質をコントロールするための製品(システム)も開発されています。大阪市立大学医学部疲労医学講座が開発したのが「快眠健康ナビ」といわれるシステムです。これは、自然な入眠と熟睡、そして心地よい目覚めを提供するシステムで、自然界に暮らす動物のように、夜は自然に入眠し、朝は「起こされたのではなく、自然に目覚めた感覚で心地よく目覚める」システムです。点■いて、徐々に照度を上げるなどして、さわやか快眠健康ナビは、就寝時には照明が電球色から夕焼け照明に徐々に照度を落としながら変化し、内蔵した睡眠センサーが入眠したと判断すると自動的に消灯します。また、睡眠中に無呼吸状態になると、枕をゆっくり動かして呼吸をうながします。さらに、起床する時には、さくら色の照明がで心地よい目覚めを迎えることができます。以上のように、疲労回復をよりうながすためには、環境の整備も重要です。大きな設備を、自宅や職場へ一朝一夕に導入することはむずかしいかもしれませんが、職場の休憩室の照明を、白色LEDからさくら色LED照明に交換するような取組みからはじめることはできるのではないでしょうか。住環境や職場環境の整備も、疲労回復に結びつくということを、ぜひ覚えておいてください。■■■京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。47エルダー

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