エルダー2020年1月号
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東京都優秀技能者(東京マイスター)などの表彰を受けた名工である佐藤さんは、1978(昭和を引き継いだ。人にも木にもやさしい庭をつくる佐藤さんだが、若いころは日本庭園が好きで、立派な松や、大きな石や池などがある庭を手がけ、多くの経験と実績を積んできた。それが近年は、「四季の移ろいや花や実など、楽しさを感じられる庭がいい」と佐藤さんは笑う。佐藤造園の先代である父親が、花や緑を大事にしているのを子どものころから見てきた佐藤さんは、だが「技は見て覚えろ」と何も教えてくれない父親に対し、複雑な想いもあった。「父親が他界するまでの8年間、一緒に仕事をして一度もほめられなかったんです。ほかの造園業の親方には、『あいつもだいぶ覚えてきた』といっていたようですが」こんな出来事もあった。ある日、雨で庭の仕事が休みになり、佐藤さんが家で障子の格子を垣根に見立ててシュロ縄※を結ぶ練習をしていると、父親が来て、せっかく結んだ縄を次々にハサミで切ってしまった。佐藤さんとしてはおもしろくない。だが、切られたのは、結び方がゆるいものや結び目がきれいでないものばかり。無言の教えだった。佐藤さんのそうした努力もあって、手仕事の一つひとつに、妥協を許さない姿勢と、自分なりの品質の基準ができていった。「基準は自分なりのものですから、声高にいうことはありません。お客さまにはわからないレベルのこともあります。お客さまにいわれたことだけをマニュアル的に作業するのではなく、プロの目で見父親には一度もほめられたことがなかった手指の感覚が大事という佐藤さん。「体が資本なので、野菜を多く摂るようにしている」、「朝は早起き。外でお酒を飲んで遅くなることはない」と話す※ シュロ縄……シュロやパームなどの植物繊維を原料とした縄。水に強く、腐りにくい62風が吹いたらなびくようにやわらかく、手で三みっ葉ぱ透すかしをします。手入れをしているかどうかで、台風や強風のときに違いが出ます20歳で本格的に造園の道に進む。53)年に父親である先代から仕事

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