エルダー2020年2月号
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2020.210かを残すことに意義ややりがいを見出すことはできないでしょう。上司自身が世の中のため、未来のために規律を持って働いている職場では、シニア社員も上司と一緒になってその取組みに貢献したいと考えるはずです。その一方で、若手社員は、シニア社員とは異なり、気持ちに配慮し面倒をみてくれる上司のもとで、自分自身も後輩社員の面倒をみるようになると考えられます。そして、シニア・マネジメントへ私たちが行った定量調査全体では、シニア社員は若手社員と何が異なるかを分析したうえで、シニア社員に「任せるべき仕事の内容」や「上司のとるべき行動」といった点以外にも、シニア・マネジメントに関するさまざまなヒントが明らかになりました。それらはすべて、加齢による変化を受け入れ、それに合わせた形でマネジメントを行うアンチ・アンチ・エイジング的なマネジメントです。シニア社員が「独立した社員、そして独立した人として、お金を稼ぐことや上司にかまってもらうことよりも、次の世代に何かを残すことに大きな意義を感じるようになる」という変化は、決して「後ろ向き」で「醜い」変化ではなく、「前向き」で「美しい」変化です。このようなシニア社員の「前向き」で「美しい」変化については、ほかの研究でもしばしば実証されてきました。例えば、若手社員は、会社に貢献できていないのに高い給料がもらえることに満足を感じますが、シニア社員は、給料に見合う貢献ができていないと職務満足度が悪化するという事実が、トビアス・コールマンたちの研究において確認されました※4。不当に多くのお金をもらっていることに対して、「儲かった」と思うのではなく、「くやしい」と思える人材こそ、会社にとってかけがえのない人材だといえるでしょう。では、アンチ・エイジング的なシニア・マネジメントとは、いかなるマネジメントなのでしょうか。ここでも、SS理論がそのヒントを与えてくれます。例えば、カーステンセンたちが行った研究では、若い人であっても、エイズに侵され、その症状に悩まされている場合、歳を重ねた人と似たような考え方を持つことが確認されました※5。別の研究では、歳をとった人でも、長生きできる薬が開発されたことを医者から伝えられたら、若い人のように振る舞うことが明らかになりました※6。すなわち、SS理論において、実際の年齢自体は問題ではありません。あくまでも、残りの人生の時間に対する眼まな差ざしが問題なのです。したがって、アンチ・エイジング的なシニア・マネジメントとは、シニア社員に人生を前から見るようにうながし、残りの人生がこれからも続いていくと感じてもらうマネジメントだといえるでしょう。これは、いわゆる「人生100年時代」という考え方そのものであり、今後このような考えを持つシニア社員は増えていくと考えられます。みなさんの会社で働くシニア社員は、年を重ねたひとりの人として、自分の人生にどのような眼差しを向けているでしょうか。彼らは、残りの人生の短さを受け入れたからこそ、一層輝きを増すような社員かもしれません。もしくは、人生を改めて前から見ることで、まだまだ多くのことをやり切れると奮い立つような社員かもしれません。シニア社員のマネジメントを行う際に、アンチ・エイジング的なアプローチをとるべきなのか、それともアンチ・アンチ・エイジング的なアプローチをとるべきなのか。そのような問題に関して、本稿がみなさんのヒントになれば幸いです。※4 Kollmann, T., Stöckmann, C., Kensbock, J. M., & Peschl, A.(2019). What satisfies younger versus older employees, and why? An aging perspective on equity theory to explain interactive effects of employee age, monetary rewards, and task contributions on job satisfaction. Human Resource Management.※5 Carstensen, L. L., & Fredrickson, B. L. (1998). Influence of HIV status and age on cognitive representations of others. Health Psychology, 17(6), 494-503.※6 Fung, H. H., Carstensen, L. L., & Lutz, A. M. (1999). Influence of time on social preferences: Implications for life-span development. Psychology and Aging, 14(4), 595-604.宍戸拓人(ししど・たくと) 武蔵野大学経営学部経営学科准教授。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了[博士(商学)]後、一橋大学商学部特任講師を経て現職。専門は組織行動論。研究にあたっては、アカデミックな背景だけではなく、現場の具体的な悩みから研究課題を抽出することを重視している。現在は、職場における対立・衝突のマネジメントや、シニア・マネジメント、研修効果の改善、組織文化の普及などの課題について、定量研究を行っている。

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