エルダー2020年2月号
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2020.220下がり、下がったことに納得が得られなければ、高齢社員のモチベーションに大きな問題が生じることは想像の通りです。制度上は合理的に設計したとしても、人の気持ちは合理的ではないからです。では、どうしたらよいのか。会社としては、人事制度を合理的に設計したことをていねいに説明していくことが基本となります。さらに、しっかりと納得してもらうために、高齢社員が自分のキャリアを見直して、気持ちの切り替えをすることが必要です。そこで重要な点の一つは、会社から求められる雇用の意味を再認識すること。もう一つは、キャリアはどこかでピークを迎え、どこからか下がることを意識することです。新人のころからずっと上へ上へと登ってきたわけですが、職業生活が長くなると、高齢になってからも登り続けることは、体力的なことなどを考慮しても無理といわざるを得ません。実は自営業の人たちは、このことを意識することによって、定年なしの働き方を実現しています。元気のよいときは商売を大きくし、体力が落ちてきたら縮小していく。そういう意味で高齢社員は、「組織内自営業主型」の働き方を求められているといえます。問題は、例えば課長を降りて一般の担当者になった際、一人のプロとしての働く意識と態度が保てるかどうか。このとき、「働く意識・行動と能力の再構成」が求められることになります。もちろん、そう簡単なことではないでしょう。いま、ようやくそういう流れが生まれ始めてきたところです。これから少しずつ、みんながそういう「下がるキャリア」を積み重ねていくことにより、やがて、それがあたり前になっていくのだろうと思います。こうした取組みが進むなかで、若い上司の下で一担当者として高齢社員が勤務することが普通になってくるでしょう。長年がんばって働いてきて、課長や部長を経験した側にとってみれば戸惑いはあると思います。ですから、「働く意識・行動と能力の再構成」は、高齢社員にとっても会社にとっても、とても重要になります。定年延長を検討するときの注意点ここまで再雇用の話をしてきましたので、最後に、定年延長について話をしたいと思います。いま、多くの人が現状の定年年齢は「60歳」と認識していると思いますが、それには注意が必要です。高齢法下で、原則、希望者全員65歳までの雇用が義務づけられ、いまの日本は実質「65歳定年時代」となっているのです。そうしたなかで、定年制の機能は、「雇用終了機能」から、60歳を契機にしてキャリアを見直す、仕事を再配置するという「キャリア転換促進機能」へと変化しています。つまり、定年を延長して、例えば65歳定年にするということは、「キャリアを見直してもらう機会を制度的には失う」ということに注意する必要があります。「もうすぐ定年だから、キャリアを見直すか」といったきっかけがなくなるわけです。ですから、定年延長を行う場合は、同時に、「キャリア転換促進機能」を別途考える必要がある、ということにも留意することが重要です。賃金の決め方については、定年延長の場合も再雇用の場合も、理屈からすると変わりはありません。実際に、定年延長している企業でも再雇用の場合と同様に、賃金を下げる会社もあります。また、再雇用でも下げない会社もあるわけです。本質的な問題は、「定年延長」か「再雇用」かではなく、「60歳以降の賃金」をどう決定するのか、ということなのです。みなさんの会社ではすでに、実質65歳定年制度を導入しているのと変わりないのですから、それをふまえて、高齢社員を戦力化するための人事管理の構築に取り組んでいただきたいと思います。

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