エルダー2020年2月号
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エルダー31FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫春は元気の出るアサリ飯アサリは“春告げ貝”春は潮干狩りの季節。島国に住む日本人の春先の楽しみの一つです。貝類のなかで人気があるのが、アサリやハマグリ。アサリの語源は「漁あさる」から来たといわれるほど、各地の河口や遠浅の海で、ザクザクと採れたものでした。春の濃厚な味わいを感じさせるアサリを好んだのが、江戸の町の庶民たち。江戸後期の風俗を伝える『守もり貞さだ謾まん稿こう』は、アサリについて「江戸深川に、この貝を漁するものが、はなはだ多し」と記しています。アサリは安価だったため、盛んに食べられていましたが、アサリ汁で困るのが貝殻が山ほど出ること。これを捨てるために、家族は貝殻を入れるための摺すり鉢を囲んで食べています。そこで、次のような川柳が作られました。「摺り鉢を 取りまいて食ふ あさり汁」さらに面白い作品もあります。「今朝かった 浅利の中に 迷い蟹」アサリのなかに、カニが迷い込んでいて、子どもたちが大はしゃぎしている様子です。江戸っ子の“元気めし”本場の深川では、多彩なアサリ料理も登場しています。汁物はもちろん、煮物やどんぶり物、炊き込みご飯などです。なかでも庶民の間で人気になったのが「深川めし」。幕末近くの江戸の町に、屋台料理として登場し、大評判となりました。むきみのアサリに油揚げ、ざく切りのネギを加え、みそや醤油で味つけして、熱々のご飯にたっぷりかけ、かっこみ食いをするのが深川めしで、「アサリ飯」とか「深川どんぶり」などとも呼ばれました。深川めしは、昭和の初めまで浅草近辺の屋台に出ていたそうです。最近では、下町ブームで人気を盛り返し、深川では町を代表する人気メニューになっています。アサリには、独特のうま味を出すコハク酸やグルタミン酸が豊富に含まれています。注目したいのはアサリに多いタウリン。疲労回復に役立ち、やる気が出ます。深川めしは、江戸っ子の“元気めし”だったのです。317

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