エルダー2020年2月号
34/68

2020.232[第88回]会ったことがなくても、遠くの方から学べることが、この世の中にはたくさんある。聖せい路る加か国際病院の日野原先生は私にとってその一人だ。先生はよく、「健康保持のためには、肉をたくさん食べなさい」とおっしゃっていた。私はこれを守っている。また先生は、高齢なので実際の医療の仕事には携たずさわらず、病室を歩いて患者たちに励ましの声を投げていたという。患者たちは、先生のこの一声にどれだけ勇気づけられたかわからない。先生は、「治療以外の人間愛」によって、その存在そのものが患者たちに大きな勇気を与えていた。私にはとてもそういう能力はないが、歴史上の人物でそういう仕事をし抜いた人物がいる。小島蕉園だ。蕉園は、江戸末期の文政年間に一橋家から代官を命ぜられた。蕉園はそのころ旗本だったが小こぶしん普請(無役)の場に置かれ、20年ぐらい経っていた。前役は、同じ一橋家の甲州代官だった。しかし若く正義感も強かったので、任地で起こった農民の高い年貢反対運動の先頭に立った。それに一橋家は怒り、「年貢を徴収すべき代官が、その減免運動の先頭に立つとは何事か!」と、直ただちに蕉園を江戸に呼び戻して代官職を剥はぎ取ったのである。以来、20年ぐらい蕉園は役無しで暮らしてきた。そして食うために、甲州で覚えた貼薬の術を活用し、町医者となった。それが20年経ってまた同じ一橋家から代官を頼まれたのだ。蕉園は固辞したが、一橋家では「ぜひ」といって引き下がらない。蕉園は52歳になっていた。高齢者の効用

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る