エルダー2020年2月号
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で導入されるルールは、労使慣行などと呼ばれることがありますが、すべてが法的に拘束力を有するとは考えられておらず、労働法上も取扱いがむずかしい問題となることがあります。労使慣行の法的拘束力について2労使間の慣行に関する法的拘束力について判断した裁判例として、大阪高裁平成5年6月25日判決(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件)があります。同裁判例は、①同種の行為または事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことに加えて、③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることが必要と整理しました。さらに、規範意識に関して、「使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要する」とされています。要するに、権限のある者が気づいていないルールが継続しているわけではなく、認めたうえで継続していたことが必要とされています。以上の要件に加えて、「その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約や就業規則等との関係(当該慣行がこれらの規定に反するものか、それらを補充するものか)、当該慣行の反復継続性の程度(継続期間、時間的間隔、範囲、人数、回数・頻度)、定着の度合い、労使双方の労働協約や就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定すべき」とされ、「労働協約、就業規則等に矛盾抵触し、これによって定められた項を改廃するのと同じ結果をもたらす労使慣行が事実たる慣習として成立するためには、その慣行が相当長期間、相当多数回にわたり広く反復継続し、かつ、右履行についての使用者の規範意識が明確であることが要求される」としています。明文の規定に抵触しても成立する可能性があるため、就業規則の明文にないルールだからといって、法的拘束力がないわけではありません。また、今回の一時金の支給は、権限者が支給に関与していないとは考えられないため、使用者側の規範意識を有していたといえ、長期にわたり事実上継続してきたことからも法的拘束力のある労使慣行になる可能性があります。労使慣行の変更や廃止について3労使慣行については、法律の明文でその有効となる要件が定められているわけではありません。そのため、労使慣行を変更する要件も定められていません。労使慣行の成立要件は裁判例で一定程度整理されているものの、変更についてはどのように考えればよいのでしょうか。京都地裁平成24年3月29日判決(立命館(未払一時金)事件)においては、労使慣行の不利益変更の有効性が問題となりました。同判決では、「労使慣行の変更が許される場合とは、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該変更の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有する必要がある」とされ、就業規則の不利益変更と同趣旨の判断基準を示しました。一時金という賃金に関連する事項については、「当該変更が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のもの」にかぎられました。同裁判例が示すように、一時金のような賃金と関連する制度の廃止を行うためには、高度の必要性がなければならず、高度の必要性が存在していない場合には、個別の同意を得たうえで、変更していくほかないということになります。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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