エルダー2020年2月号
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賃金未払いへの制裁について1労働基準法は、賃金の支払いに関して、いくつかの原則的なルールを定めています。主なルールとして、①通貨払いの原則、②直接払いの原則、③全額払いの原則、④月一度以上の定期払いの原則があげられます。まず、①の原則は、現物支給を避け、通貨という生活の糧を支給することを確保させています。②の原則は、労働者供給や職業仲介人による中間搾取などを生じさせないために定められたものであり、③の原則は、使用者による不当な控除を回避することを目的としています。③については、社会保険料や所得税の源泉徴収などの一部の例外はあるものの、貸金や賠償金などの名目で賃金から相殺することを禁止するという機能も有しています。また、④については、支払時期を不当に長期にすることで、労働者に対する拘束を強めることを回避する機能を有しています。これらのルールは、労働者の賃金を確保するために歴史的な意味でも重要と考えられてきた内容であり、労働基準法は、これらの違反に対して罰則をもって制裁を予定しています。罰則の内容は、30万円以下の罰金という内容ですが、賃金の支払い原則に関する労働基準法違反に対しては、社会通念上なすべき最善の努力をしていない場合には、労働基準監督署長は使用者に対して期日を指定してそれまでに賃金を支払う旨を厳重に確約させ、この確約に応じないときまたは確約を履行しないときは事件を地方検察庁に送致すべし、との通達が出されており、労働基準法上最も厳守することが求められているルールであるといえます。したがって、賃金の支払いが遅れないように厳守することは強く求められており、できれば、賃金の支払いが遅れないようにほかの債務の支払いとの調整を試みるべきでしょう。労働者がとりうる手段について2労働者は、使用者からの未払い賃金債権について、その支払い確保のために一般先取特権という担保権を有しています。この一般先取特権は、債務者である使用者の総財産に対して効力を有しているため、労働者の立場からは、判決を得るまでもなく、使用者の財産に対して担保権の実行を裁判所に申し立てて、使用者の財産を換価することを求めることができます。実際に実行される事例は少ないものの、労働者の権利が十分に保護されていることを示した制度であるといえそうです。未払い賃金に対する遅延利息について3賃金の支払いをうながす法律は、労働基準賃金請求権は、労働者にとって重要な権利であるため、未払いに対する罰則が用意されているほか、支払いをうながすための通達も定められています。なお、支払うことができない状態となった場合でも、破産手続が開始されるなど、一定の状況に陥った場合には、賃金の立替払い制度が用意されています。A賃金の支払いが遅れる場合の罰則や労働者への支援などについて知りたい賃金の支払いが遅れそうな状況なのですが、賃金の支払いができなかった場合には使用者へのペナルティなどはあるのでしょうか。もし、このまま支払うことができなかった場合には、労働者に対する生活保障はあるのでしょうか。Q22020.246

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