エルダー2020年2月号
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法のみではありません。賃金の支払いの確保などに関する法律には、未払い賃金に対する遅延利息が高率となるよう定められています。適用されるのは、退職した労働者にかぎられていますが、未払い賃金が生じた結果、労働者が退職に至った場合、未払い賃金に対しては、年14・6%の割合の遅延利息が付されることになっています。この規定は、退職後の未払い残業代を請求される場合にも適用されることが多く、未払い残業代を生じさせた場合には、想定以上の金額を支払わなければならなくなる場合もあります。なお、未払い残業代に対しては、労働基準法は付加金による制裁も用意しているため、最大で未払い残業代と同額の付加金支払いを命じられる場合があります。結論として未払い残業代および同額の付加金を負担しなければならなくなり、想定していた残業代の2倍を負担させられるおそれがあります。これらの規定は、賃金や残業代の請求などが行われる場合には、適用される可能性が高い内容であり、未払い賃金に関する制裁として機能する基本的な制度として位置づけられるでしょう。未払い賃金の立替払い制度4労働者災害補償保険の適用事業者(農林水産業の一部を除き、1人以上の労働者を使用する事業はすべて、強制的に適用事業であるため、ほぼすべての事業者が該当します)であって、1年間以上の事業活動を行っていた場合で、次のいずれかに該当する場合には、立替払い制度が行われています。① 破産手続開始の決定を受け、または特別清算の開始命令を受けたこと② 民事再生手続開始の決定、または更生手続開始の決定を受けたこと③ 中小企業の場合、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、かつ賃金支払い能力がないことが労働基準監督署に認定されたこと使用者がこれらに該当することを前提に、支払われる範囲にも限定があります。まず、退職した労働者が対象となりますので、いずれかの要件を充足するとともに、労働者に対する解雇などにより退職が完了されていなければなりません。次に、立替払いされる賃金は、退職日の6カ月前の日以後立替払いの請求日の前日までの期間において、支払期日が到来している定期給与および退職金で、総額が2万円以上のものについて、それらの8割に相当する額が支払われます。ただし、図表のような年齢に応じた上限額の設定もあります。賃金を支払うことができなくなってもなお、事業活動を継続しようとする経営者があげる理由の大きな部分は、労働者たちの生活への影響が大きすぎる点を心配することも多いです。しかしながら、賃金の立替払い制度の存在を知らない場合も多いように思われます。また、破産手続が開始された後においても、破産開始決定前3カ月間の賃金については、財団債権といって、破産手続において優先的に弁済をしなければならない債権とされており、使用者の財産がまったくないような場合はともかく、財産を換価したのちには、賃金の支払いを受ける可能性があります。事業活動の廃止に向けて検討するにあたっては、これらの制度の内容をふまえたうえで、方針を定めることは重要であると思われます。退職労働者の退職日における年齢立替払いの上限額45歳以上296万円30歳以上45歳未満176万円30歳未満88万円図表 未払賃金立替払制度の上限額筆者作成エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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