エルダー2020年2月号
51/68

エルダー49アクティブレストのメカニズムそれでは、アクティブレストがもたらす体の作用について考えてみましょう。一つめは、ストレッチや歩行などの軽い運動により、交感神経系が活動し始め、脳機能の鮮明化とともに血流が上がるので、疲労で溜まった老廃物や錆さびついた物質を体外に排出する機能が働くことです。二つめは、睡眠やソファーでの休息などは同じ姿勢を続けることになるため、身体はそれほど動いていなくとも、逆に、身体のいくつかの部分を圧迫し、その部分の血流を低下・停滞させることになります。これを解除するために身体を軽く動かすことで、より多くの身体の部分に血流が増え、栄養物を運ぶとともに、やはり、老廃物などを排出することを促進します。一つめと二つめの機序(仕組み、メカニズム)は、一見すると同じように見えますが、交感神経系などの自律神経系の活性化による「神経的血流改善」と「物理的血流改善」の双方が重要なメカニズムになっていると考えられます。アクティブレストはデスクワークを行うときなどにも適用できます。デスクワーク中にときどき、身体を動かしたり、歩いたりすることで疲労が回復し、高い効率で仕事を続けることができるようになります。講演会などで、多くの聴衆を集める評判のよい講演者のなかには、講演の途中に、ときどき聴衆に身体を動かしてもらったり、軽めの体操をやってもらったりしながら、聴衆を飽きさせることなく講演する人がいます。アクティブレストのメカニズムをよく理解している人といえるかもしれません。職場や生活のなかでの実践このように、アクティブレストは、軽めの運動を行うことによって疲労回復を図る取組みです。トレーニングウェアに着替えて、「さぁ、運動をしよう!」と身構える必要はありません。職場や日常生活のなかで気軽に取り入れてみることも可能なのです。例えば、・ パソコン作業の途中で、こまめに身体をほぐしてみる。また、作業の小休止の時間に、簡単にできる体操を取り入れてみる。・ プリントアウトした書類を取りに行くときや、給湯室に飲み物などを取りに行くときなど、席を離れるときに、簡単なストレッチをする。・ 軽いヨガなどを立ったままでも行えるようなスペースと鏡を用意する。・ エスカレーターやエレベーターを使わずに、数フロアだけ階段を使って上ってみる。・ せっけんの泡によって軽い力でマッサージができるので、入浴したときに、手のひらでせっけんを泡立てて筋肉をマッサージしてみる。などがあります。このように、少し工夫することでアクティブレストを実践することができます。とくに高齢者が多い職場では、全社的な取組みとして、就業時間中にアクティブレストに取り組む時間を意識的に設けてみてはいかがでしょうか。アクティブレストが疲労回復を実現し、健康状態の改善、さらには生産性の向上につながるかもしれません。みなさんの職場でもぜひ、アクティブレストを試してみてください。〔参考書籍〕  山本利春著『疲れたときは、からだを動かす!―アクティブレストのすすめ』(岩波書店)わたなべ・やすよし京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る