エルダー2020年2月号
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2020.262古い布、焼き物、宝石、ガラスなども好きで見ます。仕事にすぐ結びつかなくても、いろいろ見て目を肥やしたほうがいい。拾った木材をノミで彫ってトーテムポール※5にするなど、周囲から「自由な発想をする人」といわれていた。やがて、郡上紬を再興した宗廣力三氏(後に人間国宝)のもと、住み込みではた織りを手伝い、仕事を覚えた。当時の仲間とはいまも交流があるという。「楽しかったですよ。8人ぐらいの共同生活。朝起きてラジオ体操をして、朝食を当番制で準備しました。畑もあって、お茶摘みしたり、柿もぎしたり」自然豊かな岐阜県郡ぐ上じょう八はち幡まんで暮らし、自然素材の魅力を確信した小熊さんはその後、京都市の龍たつ村むら美術織物(明治27年創業の老舗織物会社)に通い、皇室の式典などに使われる品々の復元染めを教わった。ここでは昔ながらの、「わらの灰」などを使って染色した。自然の色には、人工の色にはない魅力があると小熊さんは話す。「赤は茜。青は藍。植物からとっ「今日は石神井公園でシラカシの小枝を拾ってきました。これを煮出して、糸を渋茶か白茶の色に染めたいと思っています」草木で糸を染め、和服用の反物を織る。その合間に、きびそ※2やたま糸※3といった通常は絹織物に使わない素材を活かして形にする。「えぼし」や「えまき」のように、ほかのデザイナーとのコラボ作品もある(61頁写真参照)。実は、この日着ているシャツも生糸の原料となる〝まゆ〟を輸入したときの布の袋から仕立てたもの。藍染めの絣かすりをあててつくろった、デザインもおしゃれ。節約だと笑う小熊さんだが、美意識もエコ意識も若いころからの筋金入りだ。郡ぐ上じょう紬つむぎ※4の宗むね廣ひろ力りき三ぞう氏に師事さらに京都で復元染めを習う昔からものづくりが好きだった小熊さん。生活デザインを学んだ短期大学時代には、建築現場で両足で綜そう こう絖を上げ下げし、両手で糸と糸の間を杼ひで通して筬おさ※1で打ち込む。両手と両足を規則正しく動かし、目はなるべく使わない※1 筬……織り機の付属用具。竹の薄片を櫛の歯のように並べ、枠をつけたもの。織り物の幅と経たて糸いとをととのえ、杼で打ち込まれた緯よこ糸いとを押さえて織り目の密度を決める※2 きびそ……蚕がまゆをつくる際に、最初にはき出す糸。繊維としては太くて不均一なため、従来はほとんど使われなかった素材。独特の質感と風合いがあり、現在、各方面で注目されている

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