エルダー2020年2月号
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エルダー63「気持ちが変わると織り目にも表れます。もし、織り目が飛んだり、ひっかかったりすると直せないので、戻ってやり直しです。着尺は織るのに1カ月かかるから、その間は遊びにも行けません」健康的でストレスのないコンディションづくりそうして大きな仕事を終えると友人の個展や美術展に足を運び、人と話すという小熊さん。日々の暮らしでは散歩や草取りのボランティア、スイミングを続けていて、健康的だ。自然の素材で満ちている工房も心地よく、ストレスを感じない。それを伝えると「気に入らないものは置かないから」と小熊さんは茶目っ気たっぷりに笑って答えた。何よりも、ご自身が自然体だった。小熊素子染織工房TEL:03(3928)0795(撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり)た色は、赤と青を合わせても反発しないんです。しかも、そのときどきで微妙に色が違う。もし、そのときほしい色が出なかったとしても、その色は後で使えばいいんです」50年にわたる研究ノートには、材料の重さや染料のパーセンテージなどの数字が細かく並ぶ。「染めは理科の実験のようでもあり、色が変化していく過程におもしろさもあります。気に入った色が出るまで、次は染料を何%にしようとか考えます」そして、織りのおもしろさは、織りはじめだと語る。「経たて糸いとを櫛状の綜絖にかけて、何を横から入れようかと柄を決めるのが楽しいです」文様はすべてオリジナル。経糸と緯よこ糸いとが交差してできる縦横無尽のデザインは尽きることがない。たいへんなのは、織りの作業だ。高い品質で完成させるには、気持ちの安定が大事だという。※3 たま糸……一つのまゆのなかに2匹以上のさなぎが入った「たままゆ」から採った糸のことで、糸に節ができる。節糸とも呼ぶ※4 郡上紬…… 岐阜県郡上市八幡町で織られる紬織物※5 トーテムポール…… 北米大陸の北西沿岸部に住む先住民の多くが家のまわりや墓地などに立てた柱状の木造彫刻寸ずん胴どう鍋で草木を煮出し、糸を染める染め場。力作業だが、特注のバーで絞りやすく工夫集めた草木を染めの原料にする準備も手作業。一つひとつの自然素材を大事にする小熊さん棚の上段の白は、染める前の生糸。中下段が草木染めされたもの緯糸を左右から通す道具、杼。宗廣力三先生の奥様が卒業記念にと贈ってくれた杼をいまも使い続けるお気に入りの格子柄。左は野の いばら茨の茎と葉で染めた糸から。右は残った糸をひらめきで組み合わせたもの

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