エルダー2020年2月号
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特集1会社を牽引するベテランプレイヤーエルダー7アンチ・エイジングとアンチ・アンチ・エイジングアメリカの女性誌﹃aアル︱アllure﹄は、2017(平成29)年9月号において、「the end of anti-aging(アンチ・エイジングの終焉)」という特集を組みました。当時72歳であった女優のヘレン・ミレンが表紙を飾り、「﹃allure﹄は今後、アンチ・エイジングという言葉を一切使用しない」と宣言したのです。アンチ・エイジングという言葉には、「加齢は抗あらがうべきものである」、「若くなければ美しくない」というメッセージが埋め込まれています。﹃allure﹄は、アンチ・エイジングという言葉を葬ほうむり去ることを通して、「ありのままを受け入れる」、「女性は年齢を重ねても美しい」という考えを世の中に広めようとしたのです。その結果、白髪染めをやめる「グレイヘア」などの流行が生じました。「加齢による変化は抗うものなのか、それとも受け入れるものなのか」。この問いは、シニア・マネジメントの問題を考えるうえでも重要な問いの一つとなります。「シニア社員も、現役社員としてほかの社員と同じように働いてもらいたい」という考えは、加齢に抗うアンチ・エイジングの立場に近い考えでしょう。それに対して、「シニア社員は、年齢と経験を重ねた社員として、ほかの社員とは異なる働き方をしてもらいたい」と考えるならば、加齢を積極的に受け入れるアンチ・アンチ・エイジングの立場をとっていると考えられます。これらのいずれの立場をとるべきかという問題は、会社の文化や職場の風土、シニア社員自身の価値観など、多様な要因によって影響を受け、一概にどちらがよいとはいえません。しかし、どちらの立場をとるにしても、必ず理解していなくてはならないポイントがあります。それは「加齢によって、人にはどのような変化が生じるのか」という点です。加齢による変化を理解しているからこそ、それに抗うことができ、また意識して受け入れることもできるのです。 人生を前から見るか、後ろから見るか加齢による変化を説明する非常に有名かつ強力な理論の一つに、スタンフォード大学のローラ・カーステンセン※1によって提唱された、「社会情動的選択性理論(Socioemotional Selectivity Theory以下、「SS理論」)と呼ばれる理論があります。この理論を支える根本的な考えは、「若いうちは、人生を前から見ることで総 論高齢社員を戦力化するためのマネジメントとは武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授  宍しし戸ど 拓たく人と※1 ローラ・カーステンセン……心理学者、スタンフォード大学長寿研究センター所長

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