エルダー2020年3月号
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2020.318高齢社員を戦力化するために︱期待・役割が異なる高齢社員︱本日は、60歳以降の高齢社員に対して企業が投資し、どのような仕組みを整備していくと、企業として高いリターンを得られるのか、ということについてお話しをしたいと思います。注目する仕組みは、「知る」仕組みと「知らせる」仕組みです。企業が「高齢社員にどのようなことを期待しているのか」を明確にしたうえで、それを高齢社員に知らせ、他方、「高齢社員がどんな能力やどの程度の意欲を持っているのか」を正確に把握するための仕組みです。これらの仕組みの整備が必要な理由は、企業経営を取り巻く環境が大きく変わりつつある、あるいは、速いスピードで動いているので、市場と企業が従業員に求めることが、確実に変化してきているからです。これは、どの年代の社員にもいえることです。しかし、60歳未満(現役正社員)に期待する役割と、60歳以降の高齢社員に期待する役割は異なる可能性が高くなります。そのため、現役正社員と高齢社員は分けて考える必要があります。もちろん、高齢社員にほかの社員と同じように第一線で働くことを期待するのも間違ってはいません。しかし、例えば高齢社員の場合、本人だけでなく、家族の健康などの事情により突然辞める可能性があります。その仕事を効率よく引き継ぐことを考えると、組織としては高齢社員には第一線というより第一・五線ぐらいの期待で、常にほかの人への引継ぎができる体制をつくっておく必要があります。そうなると、現役社員の役割とは変わってくることになるでしょう。また、60歳以降になると、意欲が現役時代とは変わる可能性もあります。学習により能力や保有資格が変わることもあります。それらについても企業は把握しておくことが必要となります。一方、高齢社員からみると、期待される役割が変わるため、「企業が高齢社員に期待する役割」を知り、他方では「高齢社員の持っている能力や意欲」を明確にしたうえで、それを企業に知らせることが必要となります。こうした仕組みは、高齢社員自身にとっても、65歳以降も働き続けていくためにも重要であると思います。﹁知る﹂・﹁知らせる﹂仕組みづくり企業・高齢社員とも肯定的意見が多い「知る」仕組み、「知らせる」仕組みの整備状況とその評価について企業と60代前半層の高齢社員を対象にアンケート調査を実施しました。高齢社員の戦力化と人事管理の整備―「知る」仕組みと「知らせる」仕組みの整備―玉川大学 経営学部 国際経営学科 教授 大木 栄一※ 文中のデータの出所は、高齢・障害・求職者雇用支援機構(2011)『60歳代従業員の戦力化を進めるための仕組みに関する調査研究報告書』、および藤波美帆・大木栄一(2012)「企業が『60歳代前半層に期待する役割』を『知らせる』仕組み・『能力・意欲』を『知る』仕組みと70歳雇用の推進―嘱託(再雇用者)社員を中心にして」『日本労働研究雑誌』No.619による講 演大阪会 場

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