エルダー2020年3月号
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エルダー29FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫カブは万能の野菜飢えを救うカブカブは食用価値のきわめて高い万能野菜です。葉は幅が広く大きく、ほかの野菜に負けない食べごたえがあります。肥大した白い球根は、多肉多汁で大きく、煮ると甘味があり、満腹感を得やすいのが特徴です。このため、古くから葉も茎も球根も、汁物、煮物、漬物の材料として親しまれてきました。緊急のときには、そのまま生食もできます。昭和20年代までは、体が温まり、米の節約にもなることから、よくカブ雑炊を食べたものです。『日本書紀』にも、「凶作などで五穀が不足した場合の飢えを救うための作物としてカブ栽培をすすめる」とあります。五穀と同じ働きまでする力を持つのがカブだったのです。古くは「あおな」といったら、カブのことでした。球根も葉も利用できるので、それだけ評価が高かったのです。カブは野菜のなかでも代表的な存在だったのです。戦国時代になると、下級武士は朝も夕もみそ味のカブ雑炊がほとんどでした。こうなると、たまには米だけのご飯が食べたくなります。武士の息子は、猟をかねてよく山に、鉄砲うちに出かけました。そのときだけは弁当に米飯だけのにぎりめしを持参します。妹たちもおにぎりをもらえるために、くり返し兄に鉄砲うちに行ってくれとせがんだと『おあん物語』という江戸時代中期の書物にあります。葉はビタミンCの宝庫江戸時代になってもカブは好まれ、江戸武家屋敷などでも、庭先に畑を開いてカブをつくり、みそ汁の実やぬか漬けの材料にしています。球根にはビタミンCに加えて消化酵素のアミラーゼが多く、胃もたれや胸焼けを防ぐ効果があります。葉は立派な緑黄色野菜で、若返りビタミンのカロテンを豊富に含みます。風邪などに対する免疫力の強化に欠かせないビタミンCは、ホウレンソウの2倍以上含まれています。また、老化を防ぐことから美容ビタミンとも呼ばれるビタミンE、それに骨を丈夫にするビタミンKもたっぷり。植物なのにカルシウムが多い点にも注目です。葉も大いに活用したいものです。318

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