エルダー2020年3月号
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̶高齢者から始まる働き方改革̶で働き方が変わるエルダー39てGBERを展開しやすい環境にあるといえます。地域のシルバー人材センターなども、登録している会員が自ら興味のある仕事を探して応募するマッチングのフローを効率化する意味で、導入しやすい環境といえるでしょう。その一方で、地域のシニアコミュニティやシルバー人材センターへのヒアリングを行っていると、「定年退職していく人が年々増加しているにもかかわらず、新規会員登録者数の減少が課題となっている」と耳にすることがあります。シニアの社会参加に対する多様なニーズに応えることが、一つのコミュニティではカバーできなくなってきているのです。例えばシルバー人材センターの場合、その仕事は「臨・短・軽」といわれる簡易な仕事が中心となりますが、それではシニアの参加意欲をかき立てられないことが課題といわれています。シニアの働き方を考える際、「臨・短」であることは柔軟な働き方を志向するうえでは欠かせない視点なのですが、いまの日本の労働市場においては、臨・短の二つを決めると、必然的に軽微な仕事になってしまう傾向があります。軽微な仕事では、今日のバイタリティあふれる多くのシニアの労働意欲を刺激することができなくなってきているのです。かといって、より高度なスキルが求められるシニア向けの仕事となると、「臨時で短期の経営相談」のように、極端に高度なスキルが求められる仕事になってしまいます。多くのシニアが満足できる「適度なレベルの仕事の開拓」も大きな課題の一つです。〝適度なレベルの仕事の開拓〞を阻害する日本式就労観「適度なレベルの仕事の開拓」という課題は、シニア就労にかぎらず、現役世代の働き方改革や、ライフイベントに直面している労働者、障害のある労働者にとっても、働き続けることに対する大きな壁として存在しています。その壁をつくっている根源的な要素が、日本における就労観の特徴でもあります。その就労観の要因の一つが、給与体系が仕事の内容に対応した「職務給」ではなく、働く役職によって決まる「職位給」となっていることです。職務定義が曖昧であるため、現役世代はあらゆる業務をこなせる人材であることが要求され、フルタイムで何でもできる人材でないと、就労機会を得づらい社会であるといえます。人件費を職務単位で計算できないため、職務の分担がやりにくくなり、働き手の減少が進む現役世代においてはその負荷が高まっていきます。職位給を支える就労観が、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という、流動性の低い単線型の労働市場です。かつての高度経済成長期においては、効率的に機能していたシステムが、今日では成長を抑制する仕組みとなっています。こうした就労観のもとで会社のメンバーとして社員を迎え入れるということは、逆にフルタイムでどんな仕事でもこなせる働き方ができなくなると、単線的なキャリアパスからはじき出されてしまうということであり、一旦はじき出されると元に戻りにくいということでもあります。本来であれば、非正規雇用という仕組みが柔軟な働き方をサポートするシステムとして機能することが期待されるわけですが、その仕組みが「非正規」雇用と名づけられたこと、そして「働き方改革」という言葉と概念が世の中にさらに遅れて出てきたことによって、そのプラスの側面に日が当たりにくくなり、労働格差を生み出し、ますます働き手を企業メンバーとしての正社員に固執させる悪循環を生み出しています。多様な働き方に関する意識調査労働格差の拡大で既存の就労観に固執われわれの研究グループで、多様な働き方に関する800名規模の意識調査を行ったことがあります※3。調査の結果からは、男女とも「仕事を通した※3 菅原 育子、今城 志保、檜山 敦、秋山 弘子「多様な働き方への態度とその関連要因」、産業・組織心理学会第35回全国大会(2019年)

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