エルダー2020年3月号
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̶高齢者から始まる働き方改革̶で働き方が変わるエルダー41きることになり、試算をするとそれほど非現実的なことではないということがわかります。ただし、国際競争力と労働生産性の低迷が、キャリア形成と重なってしまった世代にとっては状況が変わってきます。老後の備えが十分にできていないと感じているだけでなく、職位給の仕組みのなかで、管理職以上に多くの人材が詰まってしまい、昇進・昇級の機会が減っていることが、労働意欲の減退を引き起こしています。これからのシニアが定年退職するときまでに、いかに健康的なシニア就労市場を形成できるかがポイントになります。2019(令和元)年には、経団連会長やトヨタ自動車社長が相次いで「終身雇用の維持はむずかしい」ということに言及しました。人材派遣会社との議論のなかでは、新卒でいきなり派遣労働を選ぶ若者が出始めたという話も聞いています。雇用側としても、旧来の就労観を維持していくことに限界を感じているし、労働者側も旧来の就労観に基づく働き方からの脱却を求め始めています。それにもかかわらず、旧来の就労観を手放すことに対しては、根強い不安感が渦巻いていることで、双方とも最初の一歩をふみ出すことができないようです。シニア世代のジョブ開拓が現役世代の働き方改革につながる企業の一員として就職するという従来の就労観から、職務単位での就労への転換を進め、シニアが働く意欲をかき立てるジョブ開拓を広げていくためには、各企業や組織において仕事の目標を明確に定めつつ、いま現在取り組んでいる作業を一つひとつ明文化していくことが必要になります。そして、その一つひとつの作業に対し、目標を達成することに必要な作業なのか、逆にほかに実施するべき作業はないかを吟味します。次に、現在の組織内の人材の力を集中させるとよい作業は何で、外部人材の助けを借りた方が効率がよい作業は何なのか判断します。たいへん手間がかかる作業ではありますが、組織内の仕事分析を行っていくことがはじめの一歩と考えています。新たな求人を出すタイミングで、あいまいなコミュニケーション能力を求めて、応募する人材が組織のなかでの役回りを見出すことに期待するのではなく、具体的な作業を提示して遂行可能かどうかを判断してもらうところから始めるとよいでしょう。多様な人材の多様な働き方を広げていくシステムの研究開発に一緒に取り組んでいる、同じ先端科学技術研究センターの近藤武夫先生は、上述のジョブ開拓方法を開発し、障害者が無理なくできる仕事をできる範囲で従事することを助ける「超短時間就労」を提唱しています。川崎市や神戸市などでは、フルタイムでの就労や組織内のコミュニケーションを苦手としている人材に適した作業を発掘することで、障害者の就労機会を広げていっています。この手法をツール化し、シニアや柔軟な働き方を求める若手人材に広げていくことで、一人ひとりが前向きに取り組むことのできる仕事や働き方に結びつけていけると考えます。若手人材に対しては、社会の多方面に影響を与えられる人材を正社員として企業が無理をして抱え込むのではなく、社会のなかのさまざまなプロジェクトに従事し、複数の企業でイノベーションを起こすことを推進するインディペンデントコントラクター※5としての活躍を助けることに寄与するでしょう。シニア世代は、現役世代の成長とキャリア形成のために集中できるとよい職務をサポートできる頼もしい人材です。シニアの多くは特に、現役時代につちかってきた経験も活かせるようなホワイトカラーの仕事を求めています。ホワイトカラーの仕事の開拓は現役世代の働き方の改革と車輪の両輪を成す形で進んでいくものになるでしょう。※5 インディペンデントコントラクター……高度な知識や専門性を持ち、複数の企業と契約して仕事を請け負う働き方をする人、個人事業主

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