エルダー2020年3月号
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するということを示しています。一方で、試用期間中には、解約権が留保されていることから、当該留保された解約権の行使として行われる本採用拒否においては、通常の解雇とは判断基準が異なるという結論が導かれます。当該判例においては、留保解約権の行使について、「一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない」として、解雇よりは広く行使することが許されると考えられています。解雇権濫用との関係について2試用期間の性質が、留保解約権付の雇用契約であるとしても、ただ自由に本採用拒否できるというわけではなく、同判例においても「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である」と判断されています。具体的には、企業が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態などにより、採用の当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合などに、引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、留保された解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に相当であると認められる場合であれば、有効な留保解約権の行使と認められると考えられています。試用期間満了と解雇予告について3試用期間後の本採用拒否も一種の解雇であると理解されていることからも、本採用拒否をする場合においても、14日以内の試用期間の労働者を除き(労働基準法第21条第4号)、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない」と定める労働基準法第20条が適用されることになります。したがって、3カ月の試用期間を定めた場合においても、予告手当を支給しない場合には、2カ月経過するまでの間に、本採用拒否によって解雇するか否かを決断しなければならない場合があります。試用期間の延長について4試用期間中には、留保解約権が企業に残され続けることになるため、一般的には、不安定な地位に労働者を置いていると評価され、あまり長期間になることは許容されていません。あくまでも、試みの期間として合理的な範囲でなければならないということになります。しかしながら、試用期間を延長して様子を見たい場合も生じることがあります。過去の裁判例では、「試用期間の趣旨に照らせば、試用期間満了時に一応職務不適格と判断された者について、直ちに解雇の措置をとるのでなく、配置転換などの方策により更に職務適格性を見いだすために、試用期間を引き続き一定の期間延長することも許されるものと解するのが相当である」などと判断されており、本採用拒否を回避する趣旨での延長については許容されているものがあります(東京地裁昭和60年11月20日判決、雅叙園観光事件)。ただし、就業規則において、延長の規定すら定めていない場合は、試用期間の延長は、就業規則が定める最低基準を下回る(より不安定な地位に長く置く)ことになるため、延長の効力が否定されるとの規制もあるため、延長する前提として就業規則の規定は整備しておく必要があります。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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