エルダー2020年3月号
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2020.346心の疲労回復みなさんは、仕事が立て込んだときや、難易度が高いプロジェクトに直面したときなどに、心にも疲れを感じるようなことはありませんか。筆者は以前、慢性疲労症候群の患者さんと健常者の気質と性格を比較・対照した研究を行ったことがあります。その結果によると、慢性疲労症候群になった患者さんの気質や性格は、健常者に比べて、非常にまじめに物事を考え、完璧主義の人が多く、また、几帳面に仕事(学業)に取り組もうとするあまり、通常よりも強いストレスを感じたり、結果にこだわって、くよくよしたりする面が目立つことが明らかになりました。慢性疲労にならないようにするためには、日ごろからの「心の持ち方」も重要になると推測される結果が得られました。実際、専門医の先生方は、慢性疲労症候群の患者さんなどに対して、認知行動療法(ものの受け取り方や考え方に働きかけて、気持ちを楽にする精神療法)や園芸療法(草花や野菜などの園芸植物や身の回りにある自然とのかかわりを通して、心や体の健康の回復を図る療法)、動物介在療法(犬や馬など動物の力を借り、精神的・肉体的な健康状態を向上させるために実施される療法)などを行うことがあります。要は、目の前の課題がうまくいかなくてもくよくよすることがないように、目標を一段ゆるめて、小さな成果でも毎日の喜びとしてとらえられるように、周囲から指導や助言をすることが大切になると思われます。慢性疲労に対する「一番の薬」は、努力によってもたらされた成果を、親しい人からほめられることなのかもしれません。それも本人が必ずしもベストの結果と思っていなくても、視点を変えることの重要性を感じられるよう寄り添うことが肝要に思えます。また、人生100年時代といわれるいまの時代、心の疲労を防止し、認知機能の低下を防ぐための取組みとして、理化学研究所革新知能統合研究センター・認知行動支援チームの大おお武たけ美保子チームリーダーらが研究に取り組んでいる「共きょう想そう法ほう」を紹介します。認知症予防のための認知機能の活用高齢期に至ってからの健康障害は、喫煙や過度の飲酒など身体に悪いことを積極的にすることに加えて、身体によいことを「積極的にしない」ことでも引き起こされます。このため、高齢期まで健康に問題がなかった人でも、あるとき気づいたら、後戻りができないほど重大な健康障害を抱えてしまっていたということもあり得るのです。高齢期の代表的な健康障害に、「認知症」があります。認知症のうち、加齢が大きな要因とされている「アルツハイマー型認知症」には発症を防第10回心の疲労回復・認知症予防に役立つ取組み国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復

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