エルダー2020年3月号
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エルダー47ぐための方策がいくつかあり、そのうちの一つが、加齢とともに衰えやすい認知機能を積極的に活用することだとされています。認知機能が日常生活のなかで自然に使われる活動には「会話」があります。会話に着目し、認知機能を積極的に活用するような会話を行うことによって認知機能を強化することが、結果的に認知症の予防につながると考えられます。こうした考え方のもと、認知症の発症や進行を防ぐために、高齢で聞くことや話すことが苦手な人であっても、会話を楽しみながら、認知機能を活用することができるように、会話をする際に一定のルールを加えることによって支援する手法が「共想法」なのです。共想法は、大武先生が、認知症になった祖母との会話をヒントに2006(平成18)年に提唱しました。日本発の会話支援手法とされています。◆「共想法」の進め方「共想法」は6人程度のグループで行います。会話のテーマは、人と共有しやすく、前向きな気持ちや考えにつながることを意識します。具体的には、「好きなものごと」、「ふるさと」、「旅行」、「近所の名所」、「好きな食べ物」、「季節の楽しみ」などがあります。一方、他人の悪口や噂うわさ話など聞いて不快になるような話題や、意見が分かれて口論になってしまうような話題は避けます。次にあらかじめ選んだテーマに沿って、参加者が写真(または現物)とともに、話題を持ち寄ります。そして、6人の参加者(Aさん~Fさん)の順番と持ち時間(1人5分~10分程度)を決めます。1巡目は「話の時間」。スクリーンに参加者が持ってきた写真を映し(または現物を示し)、順番に写真(現物)にまつわる話をします。Aさんの持ち時間が終わったら、次にBさんの写真を映してBさんが話をします。次々に交代して、Fさんまで順番に話をします。話し手は話すことに、聞き手は聞くことに集中するのが1巡目です。そして、2巡目は「質問の時間」。順番にそれぞれの写真(現物)に関する質疑応答を行います。こうした進め方により、参加者全員に対して、均等に「話す」、「聞く」、「質問する」、「答える」の4種類の機会が与えられます。仮に、持ち時間を1人5分とすると、1巡目、2巡目とも約30分かかり、所要時間は合わせて1時間となります。なお、持ち時間は参加人数によって調整することができます。大武先生は、この共想法のための司会ロボットも開発しています。◆期待される効果高齢者のなかには、「話しはじめたら止まらない」、「いいたいことがあっても、発言のタイミングがつかめない」、「人の話を聞くと、すぐに発言したくなり、自分の話をしてしまう」という人がいます。共想法は、一定のルールを決めていますので、話す時間と質問の時間を整理することで、参加者全員が均等に参加することができます。このため、認知機能を効率的に強化することが可能です。さらに、共想法をきっかけとして、高齢者が周囲のものごとに興味を持つようになれば、自然に新しいことを覚えるようになります。このような生活習慣を身につけることで、長期的に高齢者の認知症の発症を防ぐことが期待されます。また、会話によって認知機能を高めることにより、心にも活力を取り戻せるのではないでしょうか。70歳までの雇用が定着すれば、在職中に認知症や軽度認知障害を発症するリスクも増えます。特に60代後半の高齢者が多い職場では、共想法を取り入れることで、認知症発症のリスクを軽減することができます。休憩時間を活用するなどして、みなさんの職場でも共想法を実践してみてください。〔参考書籍〕 大武美保子著『介護に役立つ共想法』(中央法規出版)わたなべ・やすよし京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。

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