エルダー2020年3月号
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エルダー3機能を高めることも知られています。骨折して寝たきりになると途端に骨に刺激がいかなくなるので、認知症が急速に進行することなども、いまではわかっています。―「人生100年時代」、「生涯現役」という言葉が聞こえてきます。長く働き続けることは、脳にどのような影響を与えますか。篠原 脳の話でいえば、働くことはよいことです。30年ぐらい前は、親が年を取ると引退してもらい、楽をさせてあげるのが親孝行だといわれました。しかし、それでは脳の力がどんどん低下していくという実験結果が出ています。例えば、60歳や65歳の定年でリタイアすると、それを境に明らかに脳の力が落ちていきます。単純にいえば、長く働き続けることは脳を使うということです。人とコミュニケーションをとり、役に立っているという実感を持つことが、脳の機能低下の予防になります。脳の健康を保つためには働いたほうがよいのです。 ただし、働くといってもルーチンワークの仕事をやっているだけでは、実は脳の活動がそれほど高くならないことも知られています。脳のトレーニングとして仕事が役に立つという前提を担保するには、少しでも新しいことにチャレンジすることが必要です。 例えば熟練者がむずかしい作業をしているのを見ると、「複雑な仕事をこなしているから、さぞかし脳が活性化しているのだろう」と思うかもしれませんが、手慣れた人にとっては脳の活動は小さいのです。むずかしい仕事でも本人が鼻歌交じりにできる仕事は、たいして脳のトレーニングにはなりません。 新しい仕事といっても、現実的に本人のレベルを超えた仕事をやらせるのは問題ですが、「挑戦すればできそうだ」というレベルの課題を与えることが、実は重要なのです。―これまでにつちかった技術や経験に基づいた仕事をするだけではなく、新しい技術を学び、自分の仕事を進化させていく。これが康的でバランスのよい食事も推奨されています。どれも、いわゆる健康維持のために重要とされていること。結局、脳も体の一部ということです。 記憶力を維持するのに一番役に立つのは、まずは運動、というのが脳科学者の常識です。有酸素運動をすると、記憶系を司る新しい神経細胞が生まれ、記憶をつくりやすくすると考えられています。また最近の研究では、運動をすると骨に刺激が加わり、これにより「オステオカルシン」という物質が分泌され、脳運動、禁煙、脳トレ、食事若いころからの習慣が脳機能の低下を予防

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