エルダー2020年3月号
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2020.34公立諏訪東京理科大学 工学部 情報応用工学科 教授 医療介護健康工学部門長篠原菊紀さん同時に脳の活性化につながるというのは興味深いですね。篠原 もちろん何もしないのが一番ダメですが、以前と変わらない仕事を続けるのもよくない。少しクリエイティブで新しいことにチャレンジすることです。定型業務をやらせるにしても、そのうち2時間程度はいままでやったことのない仕事を集中的にやってもらう。また、仕事のなかでも、事業の将来を考え、どこに投資すべきなのかを考える人や、人の仕事を調整することで高いパフォーマンスを上げる人、経営・マネジメント領域の仕事をする人、それからコミュニケーションなど対人スキルが求められる仕事をしている人は、認知機能が高く保たれることが知られています。 ただし、人の仕事の調整をルーチンのようにやっていた部長が、そのままいまの仕事を続ければよいのかというと疑問です。まったく違う部署に異動させて、ゼロからコミュニティをつくり直すようにすることで脳は活性化するでしょう。―新しい業務にチャレンジさせるにしても、年輩の社員や高齢者のなかには、腰が重い人もいます。モチベーションを高め、やる気を引き出すにはどうすればよいですか。篠原 脳のなかでモチベーションと関係するのが「線せん条じょう体たい」です。運動の開始・持続・コントロールにかかわる器官ですが、線条体とつながるドーパミン神経系に「側そく坐ざ核かく」と呼ばれる快感中枢があり、行動と快感を結びつけています。線条体の特質の一つは、予測的な活動をすることであり、つまり「この仕事をすれば給与が上がる」、「褒められる」、「人に認められる」といったことがくり返されると発火(活性化)します。それがやる気の正体だと考えられています。また、「直感」もやる気と構造的には同じと考えられています。「この仕事をすればよいことが起こりそうだ」という予感=直感は、線条体と側坐核の働きによるものです。 逆に、例えば高齢者に新しい仕事にチャレンジしてもらおうと考えても、線条体が活性化しなければ学習効果は上がりません。新しいことをやってもらうには、「給与が上がりそうだ」、「人の役に立ちそうだ」、「褒められそうだ」という予感を持たせることが必要です。特に、新規学習や再学習では、側坐核の快感中枢の働きを止めると、とたんに学習効果が下がってしまいます。―ベテラン社員の働き方を考えるうえで非常に示唆的です。意欲を持って新しいことにチャレンジしてもらうには、何らかの報酬の予感が必要ということですね。篠原 新規学習をする場合は快感の支えがないとむずかしいでしょう。報酬はお金だけではありません。給与以外にも、褒められたい、人の役に立ちたい、という人もいます。また、高齢者に意欲を持って新たなチャレンジをしてもらうには、楽しさや快感を予測できる状況にあることが重要になります。その仕組みをうまくつくることが高齢社員の戦力化につながるはずです。新しいチャレンジが脳を活性化させ行動に対する「報酬」が学習意欲を高める(聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫)

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