エルダー2020年3月号
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2020.362定された。「多くの金属は鋳造後に冷やすと収縮しますが、アンチモニー合金は逆に膨張します。そのため、鋳い型がたに彫刻された細かな模様や文字を鮮明に出せるのです」と話すのは、東京アンチモニー工芸品を中心とした貴金属製品の鋳造を70年以上にわたり手がけてきた近藤鋳造所の近藤幸男さん。長年の功績により、厚生労働省より2019年度の「卓越した技能者(現代の名工)」の表彰を受けた。アンチモニー製品の製造工程は、原型づくり、鋳型づくり、鋳造、バリ(余分な部分)取り、はんだづけなどの加工、メッキなどに分かれており、それぞれ専門の職人が存在する。鋳造にはいくつかの方法があり、近藤さんは「戻し吹き」という方法で鋳造を行う。「鋳物の多くは、炉で地金を溶かした〝湯〟を鋳型に流し込んで成型しますが、戻し吹きは湯を鋳型に流し込んだ後、なかの湯を外に出し、鋳型の内側に張りついて残った部分を取り出すと製品になります。このような技法は、ほかではほとんど見られません」戻し吹きは幅広い製品に対応でき、効率よく鋳造できる。また、できあがった製品は中が空洞になるため、見た目よりも軽量化でき、材料の節約にもつながる。長年の経験から体得した感覚で均一の厚さを実現鋳型に湯を注ぎ込み、中の湯を炉へ戻すまでの時間は、わずか数秒。製品の形状によって、湯を戻すタイミングを変える。「湯を戻すタイミングが早すぎると、厚みが足りず加工の段階で穴が空いたりしてしまいます。逆に遅すぎると、余分な厚みが出て重くなり、材料も無駄になります」また、鋳型に張りつける湯の厚さを均一にすることも重要だ。近藤さんは、長年の経験のなかでそ近藤さんのお子さんも戻し吹きの技術を習得している。普段は近藤さん一人で作業しているが、忙しい時期は、休日に喜んで手伝ってくれるそうだ鋳造はさまざまな製品を形にできる楽しい仕事です。世界でも珍しい「戻し吹き」の技術を、より多くの人に知ってもらいたい

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