エルダー2020年3月号
65/68

エルダー63戦後はテーブルウェアなどを中心に輸出用の需要が多く、近藤鋳造所でも職人を3~4人雇い、忙しい毎日だったという。しかし、1970年代以降は円高で輸出が激減。その後は国内向けにシフトしたが、業界全体での受注量は減少している。そんななか近藤さんは、近年敬遠されがちな鉛の代わりに錫をベースにした新素材「エテナ※2」の開発に協力し、エテナ製品の鋳造も手がけるなど、新たな試みにも積極的に取り組んでいる。「毎日いろいろな形の物づくりにたずさわれるので、この仕事は楽しいですよ。私が形にした製品を手にした人たちに喜んでいただけるとうれしいです。戻し吹きは世界的にも珍しい技術ですから、より多くの人々に知っていただき、再び世界で売れる製品が生まれてほしいと思います」近藤鋳造所TEL:03(3802)0533(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)の技を体得した。「戦後から1960年代にかけて輸出が盛んで忙しかったころは、何万個もの数をこなさなくてはならなかったため、素早く鋳造する技術を鍛えられました。また、さまざまな形の鋳型を扱ってきた経験から、新たな依頼がきても﹃この形ならこれくらいかな﹄という感覚で対応することができます」近藤さんが鋳造した同一の製品は、重さがほぼ均一であることも、その腕のたしかさを物語っている。豊富な経験を持つ近藤さんは得意先からも頼りにされており、「こんなものができないか」と新たな製品づくりについて相談を受けることも多いそうだ。新素材を使った製品の鋳造にも積極的近藤さんは10代のころ、創業者である父を手伝いながら戻し吹きの技術を学び、職人の道へと進んだ。※2 エテナ……東京都立産業技術研究センターと東京アンチモニー工芸協同組合が協同開発した鋳造錫合金製品の原材料となるアンチモニー合金の地金。冷えても収縮しないため、鋳造で細部を表現しやすい特徴を持つ工場内に残るたくさんの鋳型が、手がけてきた製品の多さを物語る競走馬キタサンブラック引退の際に製作された記念品坂本竜馬像。着物の折り目までしっかりと表現されているプロ野球のゴールデン・グラブ賞のトロフィーに用いられる、ボールを載せるための台座①炉で300~320℃に溶かした地金の湯を鋳型に注ぎ込む。炉の温度管理も大切な要素の一つだ②注ぎ込んだ湯を鋳型の内部全体に行きわたらせた後、余分な湯を炉に戻す。そのタイミングの見極めが重要になる①②

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る