エルダー2020年4月号
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特集中高年期の女性社員の仕事意識と企業の支援エルダー21議を開催し、経営の考え方や意識改革の必要性について共有し、徹底を図っている。また、前述の「女性リーダー塾」では、参加者の上司を集めた機会も設け、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)への気づきをうながすとともに、女性の部下に対するフォローを求めている。こうしたさまざまな背中を押す施策により、女性管理職比率は、2012年度の3・9%から、2019年度には19・0%にまで向上した。制度や研修により中高年のキャリア自律を促進中高年層に対しては、①人事制度、②職務開発、③研修・自己研鑽の三つの柱でキャリア支援を行っている。女性社員に限定したものではなく、性別にかかわらず、変化対応力を身につけ、強みの発揮につなげてもらう。中高年向けの人事制度には、再雇用制度、再雇用延長制度、社外転進制度などがあるほか、再雇用者向けの短日・短時間勤務制度や、再雇用者を対象とした副業解禁を試行するなど、より柔軟性や自律性を高める方向で、制度を拡充している。また「人事制度知らずしてキャリア開発にあらず」という考えから、研修などで人事制度の内容をあらためて周知している。職務開発の面では、会社が働く場所を提供するだけでなく、先ほど触れた「ジョブ・チャレンジ制度」に再雇用者用のポストも設けた。高齢になっても自らチャレンジしていってほしいという願いが込められている。研修では、二つのキャリア研修を用意している。一つは「ワーク・ライフデザイン研修」。35~60歳を対象とする希望者参加型の研修だ。参加者を年代別に三つに分けてグループワークなどを行い、2泊3日にわたり、自身のキャリアと向き合ってもらう。男性と女性ではライフの悩みの傾向が異なるので、グローバル職員とエリア職員などを分けて実施している。もう一つは、50歳のグローバル職員を対象とする「キャリア開発G50研修」。「ワーク・ライフデザイン研修」には定員があり、希望者全員が参加する機会を得られないことから、こちらは必須参加とした。今後は、エリア職員の実施も検討している。社員の自律をうながしつつも、手厚いサポートを用意する同社の姿勢がよく表れているのが、2018年に設置した「ワーク・ライフ応援デスク」だ。育児、介護、健康、復職、セカンドキャリアといったライフイベントの相談に、専任の担当者がワンストップで対応する。ただし、「何でも聞いてください」では自律に向かわないので、イントラネット上で本人がワンクリックすれば調べられる仕組みをつくり、そこで解決しない場合に相談してもらう。上長との面談や日常のサポートに加え、こうした仕組みを設けることで、社員の自律的なキャリア形成を後押ししている。女性社員のキャリア支援を行っていくうえで課題に感じているのは、「女性は『完璧にやりたい』とか『失敗するくらいなら、いままでの仕事を続けたい』と考える傾向がある」(吉池氏)という点。前述の「女性リーダー塾」の参加者などであれば人事担当者が背中を押せるが、そうした機会のない大多数の女性社員のなかにも、「本当は挑戦したいけど……」という気持ちが隠れているととらえている。「研修に参加した人だけでなく、女性社員のマインドを前向きにするには、現場の管理職が定期的な面談でキャリアについて相談に乗りながら、きめ細やかにサポートしていくことが有効だと考えます」と吉池氏はいう。今年度、『人材育成の教科書』を人事部が作成し、対話やコミュニケーションの重要性を管理職がふり返る機会を設けた。エリア職員のさらなる活躍をうながす人事制度改定も検討しているという。いろいろな仕掛けをしながら、一人ひとりがキャリアを描くことを後押しする同社の取組みは、これからも進化していく。

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