エルダー2020年4月号
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2020.424んだ」という上長に対しては、「Aさんのためを思うなら、経験を積ませるべき」と話し、理解をうながす。ここ2~3年で、同一部署での滞留がかなり少なくなった。ローテーションをするのは若手中心だが、ここで経験を積んでおけば、中高年になってからの活躍の幅も広がる。経験を積ませるうえで障壁となるのは、男性上司のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)だ。同社のような会社にもアンコンシャスバイアスはあり、「プロジェクトメンバーの候補者を上長にリストアップしてもらうと、男性社員の名前ばかりがあがってきて、『女性の〇〇さんもいますよね』と話すと、『ああ、いたね』といわれることがあります。悪気はなく、本人は部下への配慮のつもりだったりもするのですが、そもそも女性部下のキャリアアップの視点が欠けているケースもあるのです」(松場氏)という。アンコンシャスバイアスをなくす研修はしていないが、人事部が持つ情報をもとに昇格候補などをリストアップし、「この人は、来年昇格試験を受けるタイミングである」、「2年後に係長試験が控えている」などとアラートを鳴らし、機会ロスを防いでいる。一方で、女性社員自身の意識にも訴えかけていく必要もあるという。佐藤氏は、「男性社員は『課長になりたい』と自分の希望を表に出しますが、女性社員は『私なんかがなっていいのかな』とか、『子どもが小さいからいい出しづらい』と遠慮しがちで、こちらから声をかけないと手をあげようとしないところがあります。機会は平等に与えているのだから放っておけばいいという考え方もあると思いますが、私自身の経験として声をかけてくれる人がいなかったからこそ、声をかけてあげたい。上長を通じて『昇格試験を辞退します』といってくる人もいますが、辞退の理由を確認し、上長とのコミュニケーション内容や発している言葉が本心かと確認し、表面上の言葉を疑い、挑戦したい気持ちがあるなら背中を押したいと考えています」と思いを語る。松場氏は、これに関連して、「女性は一般的に、やるからには完璧にやりたいと考え、それが遠慮につながります。そこでチャレンジさせられるかは上長次第というのが課題ですね。女性社員の場合だけでなく、上長が“部下を育成するためのマインド”を持っていれば、『2年後の昇格試験に向けてこのプロジェクトに入れておこう』と、日々の仕事のなかで成長の機会を与えます」と指摘する。領域によっては要職が男性ばかりになることも、女性社員の活躍を進めるうえで課題だととらえている。女性社員や高齢社員が自然に活き活きと活躍している日常をつくるこのように、同社もある意味で発展途上といえるが、ほかの多くの企業と比べると、女性社員の活躍は格段に進んでいる。その理由として、佐藤氏は、次のように語る。「実際に活躍している女性社員の存在が大きいですね。役員にも部長にも課長にも女性がいる。だから、『絶対にリーダーになりたい!』という人でなくても、キャリアを築いていくなかで、自分に声がかかるのは自然だなと思えるのです。大事なのは、女性社員が活躍している日常をつくることに尽きます。そもそも当社には、約4万1000人のビューティーディレクターと約4200人のオーナー・マネジャーがいて、そのなかには、90代の女性が約290人います。昨年9月には、広島の99歳の女性が、最高齢の現役美容部員としてギネス記録に認定されました。そういう方たちが現役でがんばっている姿を見ていますので、『女性は中高年になったらお払い箱』などという感覚を持つ人はいません」年齢や性別によって不利益を被ることなく、みんなが自然に、活き活きと働く―あたり前であるべきことをあたり前にしてきた同社の取組みからは、学ぶべき点が多い。

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