エルダー2020年6月号
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特集定年退職後の多様なキャリアを考えるエルダー9年齢まで働いている先輩が少ないので、参考にできるモデルが身近にいないのです。65歳を超えて働き続けている人のリアルな情報を得たいのですね。―シニアの方々の人材としての魅力は、どんなところにあると思われますか。髙平 まずいえることは、見た目も気持ちも、実年齢より若いですね。パワーもあって、現役で活躍することは十分可能です。ご自身も、自分が高齢者だとは思っていません。 また、長く働いてきた経験により裏打ちされた高い専門性や幅広い知識・技能を持つ人がたくさんいます。現役時代に身を置いていた業界や環境の違いによる個人差もありますが、パソコンスキル、ITリテラシーが非常に高い人がいるのも、今日のご時世ならではの特徴といえます。そして、高い給料や処遇よりも、意味のある役割や生きがいを求める意識が強く、それが人材としての魅力でもあります。職業寿命が企業寿命より長い時代社外で通用する専門性が問われる―定年延長や再雇用に代表される自社での雇用延長以外の、多様な選択肢を活用した高齢者の就業機会を用意するため、企業に今後求められる対応や準備とは、どのようなものでしょうか。髙平 そう簡単ではありませんが、やはりメンバーシップ型と呼ばれる日本的な雇用システムを変え、ジョブ型に移行する必要があります※2。メンバーシップ型にもよいところがあるので、残すべきところは残して、少なくともシニアはジョブ型で考えていくべきです。現役世代の若手は企業の中核人材としてメンバーシップ型で育成し、中高年以降はジョブ型で個々人の職業能力や専門性を高める意味で、ハイブリッド型の人的資源管理を目ざすのがよいと思います。 シニアの賃金は仕事の内容と、その仕事に発揮された実力で決める。シニアの賃金を一律に下げるといった対応は、いまの時代にふさわしくありません。かつてシニア派遣の業界に身を置いていた私から見れば、本来派遣労働者の報酬はまさに仕事の内容と実力で決まるジョブ型です。どのような仕事で、どのような能力を発揮して派遣先に貢献するかが問われます。メンバーシップ型は、仕事で貢献するというよりも、組織内の人間関係をうまく調整できる人が高く評価され、昇進していくといった面があります。雇用の仕組みを、制度設計だけでなく、マインドから変えていくことが必要ではないでしょうか。―生涯現役ということで、働く期間が長くなると、転職や独立といった形で転身する機会も増えてくると思います。そうした乗り換えができるような人材育成をすることも企業の責任になってくるのではないでしょうか。髙平 その通りです。これからは、20代から70歳まで働くとして、人の職業寿命はおよそ50年という時代を迎えます。他方、企業の寿命は40年といわれていますから、職業寿命はそれより長いのです。1社だけを勤め上げて職業人生を終えることはむずかしくなる時代ですから、企業の社員に対する教育なども、狭い会社のなかだけで通用するような人材ではなく、将来は社外でも活躍できるような人材を育成することに力を入れるべきです。 例えば、最近関心が寄せられている副業解禁も一つの方法ですし、社外での学びの体験や資格取得支援など、社員の新たな能力開発の機会を用意する。また、プロボノ(職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動)など社会貢献活動を支援して、社員が現役時代から社会とのつながりを強めていけるような取組みも効果的です。 研修の見直しも必要でしょう。いわゆる定年準備型のライフプラン研修(「たそがれ研修」などと呼ばれることもあります)から、定年再起動型のキャリア研修に舵を切ることが望まし※2 メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用…… 人を採用して仕事を割り振る「メンバーシップ型雇用」に対し、仕事に対して人を割り当てる「ジョブ型雇用」がある

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