エルダー2020年6月号
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特集定年退職後の多様なキャリアを考えるエルダー15け、出向者に近況報告をしてもらっている。そこには、後に続く社員に、「先輩はこういうところでがんばっているんだな」と知ってもらうねらいもある。出向先で活き活きと働く先輩の存在が、ロールモデルとなっているようだ。また、年に1度、本社で「出向者懇談会」を開催。100人弱が参加し、近況報告をするほか、経営トップや元上司(本部長や執行役員)と語り合う懇談会の場では、社長から「みなさんは、当社が自信を持って送り出した方々です」とメッセージを贈り、会社との一体感や出向者の意欲を高めている。別々の会社に出向している人同士が横のつながりをつくる機会にもなっている。このほか、人事部では頻繁に出向者と連絡を取り、必要なフォローをするが、適度な距離感を保ちつつ、本人の不安や悩みを取り除くようにしている。出向先の人事とも密に連携を取り、うまくいっていない場合は早めに対処する。「win︲win︲winの関係」を基本に取組みを継続・進化させていく出向者に実施したアンケートによると、同社にいたときと業種・職種とも同じという人は4分の1未満で、半数以上が業種も職種も変わっている。しかし、満足度は非常に高い。本人が役立っていると感じるスキルは、「コミュニケーション能力」。仕事をするうえでは、知識やスキルも大事だが、人柄や周囲とよい関係を築こうという気持ちがより重要なのだろう。出向先からの評判もよく、先方の人事から、「60歳になる前に転籍して、うちの社員になってほしい」、「またいい人がいたら紹介してほしい」といった話を受けることも多い。出向施策に関して課題は特にないが、時代の変化に合わせた対応は必要ととらえている。具体的には、近年は、以前ほど出向候補者が多くないので、候補者を絞って、より適正な出向先で活躍いただきたいと考えている。また、10年前は大半の出向者が56歳以上だったが、長く活躍してほしいと考える出向先が増え、いまでは半数近くが55歳以下で出向している。複数の候補者がいた場合、若い人が採用される傾向があるので、同社としては、よいタイミングで年齢の高い人からうまく紹介していきたいという考えもある。また、これまでは、自社での再雇用よりも社外出向を優先するケースが多かったが、今後は、60歳以降も自社で活躍する道をいままで以上につくっていくことも必要となる。そのため、再雇用の処遇条件の見直しを進めており、定年延長も視野に入れていく考えだ。山崎人事部長は、「いずれにしても、シニア層のエンプロイアビリティを上げていくことが重要です。出向であっても再雇用であっても、65歳、さらには70歳までしっかり働く能力を磨いてほしいと考えています」と語る。そのために、50歳時のキャリア研修に加え、40歳時でのキャリア研修も始めた。また、出向施策を検討する企業の人事担当者へのアドバイスとして東條オフィサーは、「大事な点は二つあり、一つは、まず会社のなかで『出向』という言葉のネガティブなイメージを払しょくすること。当社の場合、当時の社長が社員にメッセージを出してくれました。もう一つは、周りから見てロールモデルとなる成功事例をつくること。『会社ではそんなに目立たなかったが、外に出てあんなに活躍している』というのが社員にも見えてくると、キャリア開発担当が一生懸命いわなくても社内に伝わるところが多いのです」と話す。最後に山崎人事部長は、「出向の制度やこれまでの実績は、社員が『この会社に勤めていてよかった』と感じる一因になっています。愛社精神、帰属意識、会社への貢献意欲を高めていくためにも、長く続けていきたい」と、今後に向けた思いを語ってくれた。人を大切にし、一人ひとりを活かすことに注力してきた同社の取組みは、これからも進化していくだろう。

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