エルダー2020年6月号
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特集定年退職後の多様なキャリアを考えるエルダー27活動を行うことの意義について、奥山氏は次のように語る。「退職後の生き方には、いろいろな選択肢があっていいと思います。ただ、悠々自適に好きなことをして楽しむ先輩や同僚たちを見ていると、それで本当に満足なのかと思うのです。自分が長年にわたってつちかった経験やスキルを社会のために活かすことができれば、もっと大きな喜びを得ることができる、というのが私の考えです。日本の高齢者は社会人大学などで学ぶことに積極的です。それは大いに結構ですが、個人的には、せっかく学んだのであれば、ぜひ行動を起こしてほしいと思います。これからのシニアは、『人生100年時代』といわれるように、会社生活を終えた後に、まだ長い人生が待っています。そのセカンドステージをどうやって生きるかを考えなければなりません。社会はどんどん変化していきます。そのなかで活躍し続けるためには、自らに投資して社会で活躍できる力をつけていく必要があります。そのためには、いつまでも会社まかせではなく、自分の未来を自分で切り拓ひらいていかなければなりません。特に大企業に勤める40代以上の世代は、こうした意識が非常に弱いと感じます。『寄らば大樹の陰』という意識が強いのですが、いつまでも会社にいられるわけではありません。そのことに、早く気づいてほしいと思います。そのために、われわれは気づきを得られるような機会を提供しています。セミナーもその一つですが、われわれが毎月行っている定例会に参加してみるのも一つの方法です。最初は会員にならなくても、無料で参加できます」奥山氏によれば、アワードの表彰を受けた人たちに活動を始めたきっかけを聞いてみると、現役時代から活動につながる何らかの思いを抱いていた人が多い。そういう意味では、現役のうちから社会貢献活動に取り組んでいる人々と接することは、退職後の生き方を考えるうえで大いにプラスになりそうだ。社会貢献に参画する社員の存在はSエスディージーズDGs時代の企業にとってもプラスに一方、日本のビジネスパーソンの社会貢献意識が低いのは、企業の側にも問題があると奥山氏は語る。「日本の企業は、社会貢献の面ではずいぶん後れていると思います」奥山氏は、企業の社会貢献として英国を例にあげる。1980年代初頭の英国では、サッチャー政権が財政破綻した経済を再生するために大衆窮きゅう乏ぼう化政策を推進したため、暴動が多発した。そんななかで、CBI(英国経産業連盟)傘下の企業が「ビジネス・イン・ザ・コミュニティー」(企業は社会の重要な構成員)を提唱し、社員を有給でボランティアに派遣するなど、積極的に社会貢献活動に参加する仕組みを構築してきた。「日本においても昨今、SDGs(持続可能な開発目標)が重視されるようになり、若年層を中心に社会貢献への意識は高まっています。このような動きのなかで、社会貢献意識の低い企業は、今後、必然的に淘とう汰たされていくのではないでしょうか。そうならないためには、企業内にばかり意識を向けがちな傾向にある40代以上の社員に、もっと社会貢献に意識を向けさせることが必要でしょう」とはいえ、月並みなキャリア研修で社員の意識を変えることは容易なことではないと奥山氏は指摘する。「大切なのは、実際に社会貢献の分野で活躍している人の謦けい咳がいに接する※4ことだと思います。私自身、サービスグラントの嵯峨さんと出会い、彼が行動する姿に接したことで、大きな気づきを得ました。始めたきっかけや苦労していることなども含めて、活躍している同世代の人たちの生の声を聞くことが、社会貢献への意識を持たせるうえで最も大切だと思います」※4 謦咳に接する……「〝咳払い〟を聞けるだけで価値がある」=「尊敬する人から直接話を聞くこと」

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