エルダー2020年6月号
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高齢者に聞くエルダー39人生初の訪問介護先で、排せつ物の洗礼を受ける。背水の陣で臨んだ仕事だから辞めるという選択肢はなかった。介護という仕事の過酷さを知ったあの日を忘れることはない。新たな挑戦へ巡回型ヘルパーの仕事を始めて2年、やりがいを感じ始めていた矢先、会社が倒産してしまいました。波乱万丈の人生ですが、ありがたいことに、巡回型ヘルパーの実務講習をしてくれた人が、介護事業に進出したばかりの会社を紹介してくれました。たまたまその人が面接官だったという幸運もあり、社員として採用してもらいました。当時その会社は有料老人ホーム事業を展開しており、そこが私の新たな職場となりました。社員教育に熱心な会社で、私は5年間の在職中に介護福祉士とケアマネジャーの資格を取得することができました。多くの人に支えられたおかげで、今日の私がいます。60歳で定年を迎え、会社に残る道もありましたが、老人ホームで利用者のみなさんと親しく接するうちに、リハビリやレクリエーションの分野に自分の仕事の幅を広げたいという思いが強くなっていました。そこで定年を機に退職し、レクリエーションを介護プログラムに積極的に取り入れていたNPO法人が運営するデイサービスで働くことにしました。グループホームという居場所その後もNPO法人の経営難など紆余曲折を経て、2年前に株式会社ソラストが運営するグループホームに応募し、入社しました。ソラストはもともと医療事務の会社でしたが、いまは介護、保育事業も展開しています。私は契約社員で、月20日ケアマネジャーとして勤務しています。本来の仕事はケアプランの作成ですが、一般職員と同様にフロアで介護業務をこなし、月に4、5回は夜勤も担当しています。グループホームは、認知症の高齢者が援助を受けて共同生活を送る小規模介護施設です。入居者はユニットと呼ばれる最大9人のグループに分かれ、役割を分担しながら自立した生活を目ざします。私が勤務する「上井草あやめ」には二つのユニットがあり、18人が暮らしています。最近つくづく思うことは、人生に無駄な経験など一つもないということです。歯科技工士時代にオーラルリハビリテーションという、口こう腔くう全体の環境や機能を改善する方法を学んだおかげで、唇や舌、口周りの筋肉を意識して動かす口腔体操をみなさんに実施しています。嚥えん下げの学習も大いに役立っていますし、これまでいくつかの施設で体得したレクリエーションの技法など、すべてがグループホームを快適な居場所にすることにつながっているような気がします。言葉の力を頼りに明日へいままでさまざまな介護分野で働いてきましたが、「グループホームが一番むずかしい」というのが正直な気持ちです。これまでの介護は身体と技術で対応できましたが、認知症の方と向き合うときには〝言葉〞が重要な役割を果たします。言葉に心を込め、目線などあらゆるコミュニケーションツールを駆使することで、お互いの気持ちを通わせることを目ざしています。ミーティングでも、ここが陽だまりのような居心地のよい場所になるよう、「圧力として言葉を伝えない」ことを職員みんなで確認しあっています。若い職員には、おむつの交換や食事、入浴の介助だけでなく、メンタルが大切なことを折に触れ伝えています。怒らないことが大切ですが、とてもむずかしいことです。日々体力勝負ですから、健康維持のため8千歩を目安に自宅周辺を歩いています。それから大きな声で歌うこともよい気分転換になります。民謡や懐なつメロなど、みんなで一緒に歌うと素敵な笑顔がフロアに広がります。最近、5年ごとに更新するケアマネジャー資格の研修を受けたばかりです。「生涯現役」を目標に、これからも利用者のみなさんに心を寄せていきたいと思います。

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