エルダー2020年6月号
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2020.644新型コロナウイルスがあぶり出した現代社会の課題これまで5回にわたって、AIやVR、そしてロボットなどの最新のICTが変えていく高齢者を中心とした未来の働き方についてお話ししてきました。最終回となる今回は、これまでの内容を総括しつつ、未来社会の向かう方向をまとめようと思います。この原稿を執筆しているまさにこの瞬間、中国武漢市で大流行した新型コロナウイルスは、世界中にその猛威を拡大しています。米国の医学雑誌﹃JAMA(The Journal of the American Medical Association)﹄に掲載されたCDC(Chinese Center for Disease Control and Prevention)からの論文では、調査を行った80歳以上の感染者1408人のうち208人が亡くなり︵致死率14・8%︶、70~79歳の感染者3918人のうち312人が亡くなった︵致死率8%︶、という統計が報告されています※2。高齢者や基礎疾患を持ち免疫力に不安を抱えている方にとっては、特に予防対策を意識する必要がありますが、一方で外出することがはばかられ、社会参加の機会が奪われて身体を動かす機会が減ること自体が健康によくないことです。その意味では、WHOからパンデミックと認定された新型コロナウイルスによる「働くこと」への影響は、本連載でお話ししてきたトピックと密接に関わるところが多く、触れないわけにはいきません。新型コロナウイルスの感染は、瞬く間に世界に飛び火しました。2020年3月現在でイタリアでは死者が1万人を超え、アメリカでは感染者数が中国を抜き30万人を超えました。若年層の感染者は無症状であることもあり、気づかないうちにウイルスをばらまいてしまう可能性があります。日本においては2月下旬から、市中感染の発生が確認されると、不要不急の外出や人が集まるイベントを中止・延期する動きが全国的に広がりました。早期から社内外での対面での会議や出張を禁止し、オンラインでの会議に切り替える企業が多く出てきました。3月2日からは、小中高校の春休みまでの一斉休校が要請され、卒業式・入学式の中止や新学期の開始の延期も行われるようになりました。開催予定だった東京五輪の延期も決まり、感染者数も急速に増加してきています。本稿が掲載される段階でもおそらくまだ、外出の自粛要請は続※1 AI・ICT……AI(Artificial Intelligence)は人工知能、ICT(Information and Communication Technology)は情報や通信に関連する科学技術の総称※2 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762130―高齢者から始まる働き方改革― 生涯現役時代を迎え、就業を希望する高齢者は、今後ますます増えていくことが予想されます。そんな高齢者の就業を支援するうえで期待が集まるのが「AI・ICT」※1。AI・ICTの活用で、高齢者が持つ知識や技術、経験を効果的に活用できる働き方が実現すれば、現役世代の負担軽減につながります。それが、〝高齢者から始まる働き方改革〞の姿です。東京大学 先端科学技術研究センター 講師 檜ひ山やま 敦あつしで働き方が変わる最終回多様な人材が不安なく生活を維持できる未来社会へ向けて

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