エルダー2020年6月号
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̶高齢者から始まる働き方改革̶で働き方が変わるエルダー45いていることでしょう。目に見えた状況の変化が起きないと次の一手を打たない、打てないことは、疫病のように指数関数的に変化するものへの対応としてはまったくの手遅れになります。しかし、世の中の経済のシステムが平常時しか想定していないことが、安全な方向に手を打つことを妨げています。職場や学校は混乱し、最終的にしわ寄せは家庭に降りかかっていきます。この一連の動きのなかで、ICTを活用した柔軟な働き方の促進を取り巻く課題が見えてきました。非常事態で溶け始めた旧来の就労観現役世代においては、突然の一斉休校が行われたことから、非正規雇用の労働者や、子育てを行っている共働きの家庭の働き方に大きな影響が出ました。育児中の共働きの家庭では、家庭での保育のため、出社が困難になる状況が引き起こされました。正規雇用者のテレワークは広がりましたが、非正規雇用者は、テレワークがそもそも認められておらず、仕事の結果ではなく会社での勤務時間で給与が支払われているため、出社できないと給与が支給されなくなる問題が議論されるようになりました。非正規で育児を行っている労働者にとっては本当につらい状況です。わが国の労働環境は、配慮や支援が必要な人材であるほど配慮や支援を受けにくい、厳しい労働環境であることが明るみに出ました。第5回の連載でお話しした、日本式就労観に内在される、フルタイム男性正社員を基準に考え、女性偏重の子育てや介護を暗に想定した対策が打ち出されるようでは、ダイバーシティを目ざす世の中の流れにまだ追いついていないことが分かります。このような状況をふまえ、IT大手のヤフー株式会社や人材大手のパソナグループは子どもの預け先に困っている社員に対して、会社の共有スペースなどを活用して子どもを連れて出勤できるよう対応を始めました。多くの企業で在宅勤務の適用範囲を広げ、有給の特別休暇を取得できるようにする動きが広がっていきました。裁量労働制が適用される私のような研究者の間では、普段から遠隔ビデオ会議ソフトを駆使して、ほとんどのミーティングをオンラインで対応しています。遠隔ビデオ会議を日常的に使って気づいたことがあります。会議が時間通りに始まり時間通りに終わるようになりました。対面だと雑談が始まったり話が脱線したりすることがありますが、オンラインの方が議題に集中できるようです。また、打合せのための移動時間がなくなるので、いままで失われていた時間を別の仕事に当てることができるようになりました。これによってこなせる仕事の量が増やせますし、参加できなかった会議にも参加できるようになりました。遠隔ビデオ会議の適用範囲が広がったことで、労働生産性とQOLが高まりました。また、参加者一人ひとりの表情を画面で確認できることは、多人数であるほど対面より心理的距離感を縮める印象があります。非常事態を想定したシステムの再構築が必要4月からは新学期を迎えますが、東京大学では遠隔講義の推奨から原則として遠隔講義に切り替える方針に変わってきました︵3月末時点︶。すでに教育の一環で学生にパソコンやタブレット端末などが配付できている学科や専攻であれば、急な遠隔講義への移行に対応する障壁が少なくなります。全学的にも多人数の講義を遠隔で実施できるように、500人まで同時に接続できるよう、遠隔ビデオ会議ソフトのアカウントを提供するなど準備を進めています。不安要素は、東京大学だけでも何万人という学生がさまざまな講義で一斉にインターネット

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