エルダー2020年6月号
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̶高齢者から始まる働き方改革̶で働き方が変わるエルダー47は在宅勤務を義務づけるドラスティックな意思決定が行われました。CNNからは何百万人もの労働者が在宅勤務に切り替えた結果、大気汚染が改善されたという報道がなされ、衛星写真が公開されました※4。一方日本では、パーソル総合研究所の調査によるとテレワークの実施率は首都圏でも正社員の20%に満たないと報告されています。流動性の高い労働市場が雇用のセーフティネットに現在、打撃を受けている外食産業に対して、シェアリングエコノミーの宅配サービスが、レストランの経営維持と外出できない住民との間をつなぐニーズを満たしています。文化芸術の分野の働き手にも大きな影響が出ています。劇場やスポーツイベントでは、多くの観衆を一カ所に集めることになります。舞台の役者が、興行できないために大量解雇されたという報道も複数出てきています。複業・兼業や雇用の流動性が確保されていれば、事態が終息するまでの一時的な期間、異なる形で収入を得ることができます。いままでにない状況に社会が直面したことで、いまだから新たに必要な人手もあることでしょう。自分に合った、自分ができる仕事を検索するジョブマッチングの仕組みが身近に利用できることは生活をつなぐツールになり得ます。年齢や性別、障害の有無に関係なく多様な人材が活躍できる社会へ新型コロナウイルスが引き起こした危機は、思いがけず働き方改革を進めることになりました。ただ、この事態が終息しても、せっかく進んだ働き方改革の流れを元に戻すような動きは起きてほしくないと切に願います。私たちが多くの犠牲を払って得た学びであり、人々の生活基盤を強くするものであり、多様な人材の社会とのつながりを強化する変化であります。この動きを定着し、加速する方向で、社会は歩みを進めていってほしいと思います。本連載は、現在私が代表者として科学技術振興機構の未来社会創造事業から支援を受けている研究開発プロジェクト「人材の多様性に応じた知的生産機会を創出するAI基盤」の展開と並行して行ってきました※5。これからも、年齢や性別や障害の有無を超えて、だれもが無理なく働けて不安なく100年の一生を送れるように、人から仕事を奪うのではなく、人と仕事とをつなぐテクノロジーの研究開発とその導入へ向けて取り組んでいきたいです。いま現在、自由に外出ができない、家族や友人と会うこともままならないシニアの読者のみなさまも多いと思います。インターネットの世界のなかでは年齢も性別も国籍も障害の有無も関係ありません。個人や仲間とつながることで、工夫次第で新しい経験や、世の中の必要に応える場を見出すことができるかもしれません。外出の自粛が要請されている日曜日の東京の窓越しに、満開の桜と季節外れの大雪が降りゆく風景を眺めて、多様な一人ひとりの働きやすい生きやすい世の中の訪れを願いつつ、この連載の筆を置きます。※4 https://www.cnn.co.jp/usa/35151251.html※5 https://el.rcast.u-tokyo.ac.jp/

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