エルダー2020年6月号
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濫用法理の準用などによって、客観的かつ合理的な理由と、社会通念上の相当性がなければ、労働契約を終了できません。解雇が認められるか否かにおいて、重要な要素となっているのが、「最終手段として解雇を選択したか否か」です。したがって、最終手段となるためには、通常であれば、解雇以外の手段によって雇用を維持する努力が求められることになります。解雇以外の手段としては、例えば、業務指導による能力改善、配置転換や転勤による業務内容や就業場所の変更などが典型的な解雇回避措置になるでしょう。経験者や即戦力の労働者を採用する場合には、最終手段までの選択肢をできるかぎり減らしておくことが重要となります。したがって、例えば、就業場所を限定することによって、転勤という選択肢をなくしておく、職種を限定することによって、配置転換という選択肢をなくしておく、高額の処遇と期待する能力をあらかじめ明示しておくことによって業務指導による能力改善を行うという前提をなくしておくといったことが重要となります。労働条件通知書や労働契約書においては、基本的な必要的記載事項以外の項目について触れることなく、当たり障りのない内容のみが記載されていることが少なくありませんが、経験者や即戦力を期待している場合には、就業場所の限定や職種の限定を明記するほか、期待する能力についても明記しておくことが重要です。なお、これらの点については、突然、契約書に記載するだけでは不十分であり、求人広告や求人票の記載においても明記しておく必要があります。また、面接の際においても、いかに即戦力として採用することを前提にしている求人であるかということは明確に伝えておくべきでしょう。裁判例について3部長として中途採用を行った会社において、試用期間満了時に本採用を拒否した事案について、試用期間満了時の判断を有効とした裁判例を紹介します(東京地裁平成31年1月11日判決)。事案の概要は、次の通りです。A社が部署の特性を理解したきめ細やかなマネジメントを行うことができ、グループ全体の新たな事業分野の開拓にも貢献できる即戦力の人材を求めて、部長職としての募集であることを明示して求人を行っていたところ、X氏がこれに適合する人材であることを前提とした履歴書を提出し、A社とX氏は年収を1000万円超と設定した労働契約書を締結しました。ところが、1カ月も経過しないうちに、X氏がパワーハラスメントをしたとの通報があったほか、履歴書の記載においても虚偽の事実が発覚したというものです。裁判所は、採用の経緯などもふまえて、「原告は、その履歴書における経歴から、発達支援事業部部長として、さらにはA社グループ全体の事業推進を期待されるA社の幹部職員として、A社においては高額な賃金待遇の下、即戦力の管理職として中途採用された者であり、職員管理を含め、A社において高いマネジメント能力を発揮することが期待されていた」ことを前提にしました。そして、A社は、X氏の採用経緯などから、ほかの部署に異動させるなどの解雇回避の措置をとるべき義務はなく、即解雇することにしても本件労働契約の特質上やむを得ないなどと主張していました。裁判所も、「他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動のほか、履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められるところであり、本件本採用拒否による契約解消は、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当なものと認められる」と判断して、本採用拒否を有効と判断しました。裁判例から見える留意事項について4履歴書における虚偽記載などの事実が重視されるためには、採用理由との関連性が強く求められるところであり、即戦力としての期待をあらかじめ示しておくことは、採用理由エルダー49知っておきたい労働法AA&&Q

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