エルダー2020年6月号
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いるかという観点から判断すべき」として、過去の裁判例において踏襲されてきている基準と同様の基準を示しています。まず、労働時間の管理について、勤務時間は把握されていたものの、遅刻早退による賃金控除はされておらず、労働時間管理については裁量を有していたと評価されました。待遇としては、年収1200万円を超えており、部下との差額も240万円程度におよんでいたことから、待遇としてはふさわしい地位にあったと評価されました。しかしながら、経営者との一体性に関する具体的な判断にあたっては、コーポレートプラン部(経営企画業務)のマネージャー職に従事していた時期の職務内容について、上長が了承しないかぎり、企画立案が採用されることがなかったことや、会議において発言することが基本的に予定されていなかったことから、経営意思の形成に対する影響力が間接的であるとされました。また、収益に影響のない事項の裁量を有していたものの、収益に影響がある場合にはCEOの決裁を求める必要があったことなどから、権限が限定的であるとされました。また、異動後のマーケティング部におけるマーケティングマネージャーとしての職務においても、重要な会議に参加しているものの、提案にあたって、あらかじめ上長の承認を受ける必要があること、出席が求められるのも担当する商品が議題に上がるときにかぎられていたこと、参加の機会が限定的であることなどから、こちらも経営の意思形成への影響力が間接的とされています。これらの労働時間管理、待遇、経営者との一体性を総合考慮された結果、結局、経営者との一体的といえるだけの重要な職務、責任、権限を付与されていたとは認められないとして管理監督者性は否定されました。裁判例から見える留意事項について3労働時間の裁量に関しては、管理監督者性を否定する事情としては、管理監督者であるにもかかわらず労働時間の把握がなされていたことが主張されることが多いですが、裁判例における労働時間の裁量についての判断においては、労働時間が把握されていたこと自体が決定的な要素とはいえないように思われます。一方で、労働時間に関しては早退や遅刻の賃金控除を行っていたか否かは重視しており、単に労働時間を管理または把握されていただけでは、管理監督者性が否定される要素とはされていません。働き方改革にともない、過労死の防止などをふまえて、労働時間の状況の把握が求められていますので、現在の裁判例の傾向は今後も続くものと考えられます。待遇については、ケースバイケースの判断にならざるを得ませんが、一般職と管理監督者の待遇の差は、重要とみられていると考えてよいと思われます。今回の事例では、部下との間で年収にして240万円ほどの差が生じており、待遇としては十分なものと評価されました。どの程度の待遇であれば十分といえるかという判断はむずかしいですが、時間外労働や休日労働の割増賃金が発生しなくなった結果、賃金などに関する待遇が悪化したような事情があると、消極的に評価されるものと考えられますので、役職への就任前後の賃金の変化は重要な要素となるでしょう。最後に、経営者との一体性、与えられている権限の重要性は、近年でも厳格に判断される傾向にあるといえます。各要素を総合考慮するといわれているものの、ほとんどのケースにおいて、判断の決め手になるのは、経営者との一体性としての権限の重要性が不足しているという点です。今回の裁判例においては、上長の承認や了承が必要とされていることや会議での発言や参加の機会が限定されていたことなどから、結論として経営者との一体性が否定されていますので、管理監督者と位置づけている従業員については、役職の位置とともに、決裁や稟議における位置づけ、参加する重要な会議における発言権なども確認しておく必要があるでしょう。エルダー51知っておきたい労働法AA&&Q

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