エルダー2020年6月号
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2020.654〝年功序列〞を生み出しているのは人事制度ここからは、もう一歩ふみ込んで人事制度の特徴について見ていきたいと思います。かつて日本の労働慣行の〝三種の神器〞と呼ばれているものがありました。「企業内労働組合」、「終身雇用」、「年功序列」のことです。ただし、この三つは現在では崩壊しつつあるともいわれています。労働組合の組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は2019年時点では16・7%で、平成が始まった1989年よりも10%近く下がっています(厚生労働省「令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況」)。また終身雇用については、2019年にトヨタ自動車株式会社の豊田章男代表取締役社長が否定的な発言をしたことがマスメディアなどで大きく取り上げられました。年功序列についてはどうでしょうか。崩壊しつつあるという論調がありながらも、管理職層・経営層に中高年(特に男性)が多いことを考慮すると、年功傾向は現時点ではまだまだあるといえそうです。さて、この年功序列ですが、人事制度と大きなかかわりがあります。〝年功序列制度〞という制度は存在しないのですが、人事制度の運用の結果、年功的な傾向になるのはよくある話です。人事制度の組立ての基本を何に置くかで、運用上の特徴が決まってきます。①職能資格制度(能力等級制度)能力の高まりに応じて、処遇(等級や報酬)が上がる制度です。日本独自の制度ともいわれており、年功的運用を生み出しやすい制度です。「能力の高まりに応じるのなら年功にならないのでは」という声が聞こえてきそうですが、ここでいう〝能力に応じて〞は、パフォーマンスの高い人の処遇がよいといったものではありません。人事で注意書きもなく「能力」といった場合、「経験によって積み上がるもの」であり、よほどのことがなければ下がることのないものを示します。そのため、長く勤続すればするほど理屈としては処遇がよくなっていきます。パフォーマンスが高く、若くして役職についた社員よりも、長年同じ仕事をしている社員の方が年収が高いという現象が発生することもあります。②職務等級制度職能資格制度を日本独自の制度とした場合、他国で主流なのは「職務等級制度」です。従事している仕事の価値によって処遇が決まるものです。例えば、職能資格制度では異動などで仕事内容が変わっても従事する人が変わらないかぎり処遇が変わることは基本的にはありません。一方、職務等級制度では同じ人でも仕事内容が変わると処遇が変わるのが基本となります。このため、前者を「人基準」、後者を「仕事基準」と呼ぶこともあります。日本が人基準であるのは、高度経済成長期の過剰なまでの人手不足に対応するため、長期勤続を前提にいろいろな仕事を経験させていく必要があったという事情があります。一方で他国が仕事基準を採用する背景には、処遇における人種差別を避けるため、どんな人が従事しても仕事によって処遇を決めていく必要があったといわれています。この場合、年齢や勤続年数などにかかわらず仕事内容によって処遇が決まるため、年功という運用結果にはなりにくくなります。③役割等級制度では、日本のすべての会社が職能資格制度かというとそうでもありません。事業環境の変化が激しい近年、年齢や勤続の長さよりもパフォーマンスにより処遇を決めていこうという考えの会社が増えています。それであれば職務等級制度を導入すればいいのですが、できれば長く勤めてもらい、いろいろな仕事も経験してほしいという企業側の要望もあり、仕事が変わると処

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