エルダー2020年6月号
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エルダー55遇が代わる制度は導入しにくいという事情もあります。そこで、2018年時点では30%程度の会社が導入し、今後も増加傾向にあるといわれているのが「役割等級制度」というものです(「労政時報」第3957号)。この制度は、職能資格制度と職務等級制度の両方の特徴を取り入れた制度といわれています。重要な役割をになえば高い処遇になりますが、その役割が大きく変化しないかぎり(異動などで仕事内容が変わる程度では)、おおよその処遇は維持されます。高齢者の人事制度の動向ここまで、人事制度の構成や特徴について見てきました。最後に高齢者の人事制度の動向について触れて締めくくりたいと思います。高齢者の人事制度は、定年退職の前と後で内容が変わります。定年退職前であれば何歳であっても同じ人事制度が適用され、処遇もほとんど変わらないのが原則です(人によっては役職を外れ、その分報酬が下がるというのが一部あるかもしれません)。一方で、定年を迎えると同じ会社で雇用されても「継続雇用制度」というものが適用され、退職時の年収よりも3〜4割程度下がってしまうのが一般的傾向です(独立行政法人労働政策研究・研修機構「高齢者の雇用に関する調査」)。定年前にはあった賞与が定年後にはなくなり、給与そのものも減額され、評価も実施されないというケースも見られます。役割・能力や仕事内容が同じであれば、処遇は維持されるというのが人事制度の基本的なスタンスです。一方で、継続雇用では処遇の切り下げが行われているのはなぜでしょうか。一つの理由としては、定年退職で一度雇用関係が終わっていて新たな雇用契約に基づくため、処遇の見直しをしやすいことが挙げられます。もう一つは、職能資格制度の運用により年功的に処遇が上がっている場合は、退職時の処遇の高さにパフォーマンスが見合わないということが、理屈上出てきてしまう点にあります。さらには、労働力人口が今後10年間で500万人程度減るといわれているなか(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)、若手採用の市場が激化しており、そちらに人件費をふり分けたいとする企業の事情もあります。2013年4月1日施行の高年齢者雇用安定法の改正により、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」、「定年の廃止」のいずれかの措置をとることが始まって以来、継続雇用分をコストとしてとらえ、高齢者雇用の位置づけを「福祉的雇用」とみなした企業も多いという実態があります。しかし、近年は高齢者雇用を「戦略的雇用」とみなし、高齢者に定年前と同じ役割や業務内容を求める代わりに、処遇も引き上げる会社が増えてきています。その背景には、若手の採用が年々困難になる、定年を迎える社員数が増加し続ける、職種によってはベテランの知見があらためて見直されてきている、といった点があげられます。また、先に述べた処遇の切り下げが、本人たちのモチベーションや生産性を押し下げていることが問題視されてきています。そのため、視点を〝コスト〞から〝活躍の促進〞に切り替え、定年退職前と同じ制度を適用したり、成果に基づく処遇の仕組みを導入するなど、高齢者雇用のあり方を見直している会社も増えてきています。継続雇用における人事制度の見直しが、高齢者雇用活性化のキーポイントになるのは間違いなさそうです。☆  ☆さて、今回は初回ということで幅広く人事制度について解説しました。次回は、本稿最後に触れた高齢者雇用にまつわる制度の理解をより深めるために「定年」について解説する予定です。■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けない

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