エルダー2020年6月号
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2020.662版木に絵の具を塗り、その上に和紙を置き、手のひらで摺すって模様を写し取る。同じ箇所に二度摺りするため、ずれないようにするのが熟練の技だの錦にしき絵えが残っていますが、そのころと同じ道具と技法で製作しています」と話すのは、唐紙師の小泉幸雄さん。2000年に経済産業大臣認定伝統工芸士に、2017年に国選定保存技能保持者に認定され、昨年には旭きょく日じつ双そう光こう章しょう叙じょ勲くんを受賞した唐紙の第一人者だ。これまで、浜離宮「松の茶屋」、長崎・出島のオランダ商館、「風ふう神じん雷らい神じん図ず屏びょう風ぶ」、「洛らく中ちゅう洛らく外がい図ず屏びょう風ぶ」など、文化財の復元や修復も手がけてきた。「50年後、100年後に残る仕事ができるのはありがたい。美しさを評価されるとうれしいですね」小泉さんは、江戸の名工といわれた唐紙師の初代小泉七しち五ご郎ろうから数えて5代目にあたる。先代の父・哲てつ氏が法人化した株式会社小泉襖ふすま紙がみ加工所を、息子2人と切り盛りする。子どものころから父の手伝いをしてきた小泉さんは、20歳でこの道に進んだが、高度成長期だった当時はシルクスクリーンを使ったふすま紙の量産が仕事の中心だった。その後、次第にふすまの需要が減少するなかで、父の背中を見ながら伝統技法を習得。現在は、その技を用いた唐紙が製作の9割を占める。1㎜のずれもなく模様を写し取る技術唐紙の代表的な技の一つに、版木から模様を写し取る「版木押し」がある。顔料に光沢のある雲き母らを用いた版木押しの唐紙は、草花をあしらった伝統模様が淡く輝く、美しい仕上がりになる。版木押しの工程は、絵の具づくりから始まる。雲母などの天然由来の顔料と、接着剤の役割を果たす布ふ海の苔り(海藻の一種)は水を混ぜてつくる。絵の具は、丸い枠に布を張った篩ふるいに刷は毛けで塗り、その篩を版木の凸部分にあててつけていく。そして、版木の上に紙を置き、手のひらでなでて模様を写し職人にとってもっとも大事なことは、引き出しをたくさん持つこと。そうすれば、どんな注文がきても柔軟に対応することができます

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