エルダー2020年6月号
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エルダー63がやめたら、東京に唐紙はなくなってしまう」と危機感を抱く小泉さん。2人の息子が一人前に育つなかで、技術を継承していくために親子で力を入れているのが、唐紙づくりの技法を用いた小物の製作である。絵葉書、名刺カード、御朱印帳など、さまざまな商品を開発し、ネット販売も始めている。「例えば甲かっ冑ちゅう師しは、ミニチュアの五月人形をつくることで、いつでも本物に転用できるように技術を継承してきました。私たちもそれを見習い、小物の製作を通じて、この伝統の技を後世に残していきたいと考えています」唐紙は、震災や戦災、また戦後は量産品に押されるなど、何度も消失の危機に見舞われてきたが、そのたびに人々の努力によって存続してきた。今後も末永く継承されていくことを期待したい。株式会社小泉襖紙加工所https://www.koizumihusumagami.com/(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)取る。同じ箇所を二度摺するため、位置が1㎜もずれないように、版木に紙を置く瞬間は息を止めるという。三六判※2の大きなふすま紙は5回に分けて摺るが、仕上がりを見ると、継ぎ目はまったくわからない。版木の上に紙を置く位置は、小泉さんが独自に編み出した方程式を使うことで、ぴったりと合わせることができるそうだ。「むしろむずかしいのは、布海苔や水の分量の調整です。布海苔は天然の材料なので、その状態によって毎回分量を調整する必要があります。また、摺る前に紙を水刷毛で湿らせておきますが、その程度も毎回異なります。その辺は経験による勘に頼るしかありません」技術継承のために現代に合った商品を開発ふすまの需要減少にともない唐紙職人も少なくなっており、「私※2 三六判……横91cm、縦182cmの大きさのもの※3 寒冷紗……網目状に荒く織り込まれた堅めの綿布、または麻布のこと※4 絽……薄く透き通った絹織物の一種。江戸時代に夏物衣料として発展伝統技術の継承のため、御朱印帳や手帳、チケット入れなど小物の製作にも力を入れている小泉さんが手がけたふすま紙。雲母の光沢によって模様がうっすらと浮かび上がる(写真提供 小泉さん)長男の雅行さん(右)、次男の哲あき推おさんと親子3人で伝統技術を守る幅三尺(約90cm)の大きな版木を用いるのが唐紙の特徴。篩ふるいを使って、版木の凸面のみに絵の具を均質にのせる撮影用に摺ってもらった桜模様の唐紙の仕上がり具合を確認。桜は江戸時代から伝わる伝統的な模様の一つ唐紙独特の道具である篩。布には寒かん冷れい紗しゃ※3や絽ろ※4などが用いられる

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