エルダー2020年7月号
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2020.712アクティブレストとは?近年、﹁アクティブレスト(積極的休養)﹂という概念が提唱されています。アクティブレストとは、従来、スポーツ分野での用語であり、疲労したからといってすぐに横になるのではなく、適度に身体を動かすことによって血液循環をよくし、効果的に疲労を回復させるという考え方です。試合後または練習後のクールダウンがその典型例といえるでしょう。クールダウンをしっかりやるかやらないかで、翌日以降のコンディションが左右されます。最近では、産業保健分野でも﹁寝る﹂、﹁くつろぐ﹂などの消極的休養に対して、運動や体操など何らかの活動を行うアクティブレストの方が疲労回復につながり、その後の作業効率が向上すると考えられています。人生100年時代といわれる今日、健康寿命延伸のためには中年期からの健康づくりが重要と考えられます。そこで私たちの研究グループでは、このアクティブレストの考えをもとに、企業での運動介入研究を実施してきました。本稿では、﹁アクティブレストプログラム﹂の概要とその効果について紹介します。アクティブレストプログラムの概要産業保健分野への応用に至った背景⒜ アブセンティーズムとプレゼンティーズム高齢化が進む日本では、労働者の健康のみならず労働力の健全性(労働生産性)を保持・増進させることが重要です。﹁労働生産性﹂とは労働の効率を示す指標であり、﹁病気やケガのために損失した労働時間(アブセンティーズム)﹂と、﹁出勤はしているが疾患により生産性が低下した状態(プレゼンティーズム)﹂によって評価され、最近ではアブセンティーズムよりもプレゼンティーズムによる労働損失が大きいと報告されています※1 ※2。日本の製薬会社の職員を対象にした研究では、労働生産性に影響をおよぼす健康問題として、上肢痛・腰痛などの筋骨格系疾患、睡眠障害、メンタルヘルス疾患が上位を占めることが示されています※3。さらに高齢化が進む日本では、労働生産性の保持・増進のため、個人だけではなく企業が労働者の健康増進に投資することが今後求められる課題と考えられます。⒝ 日本人労働者の休み方近年、スマートフォンの普及により休憩中は休憩時の適度な運動で健康増進・生産性向上を︱アクティブレスト(積極的休養)の理論とその効果―福岡大学スポーツ科学部 運動生理学研究室 准教授 道みち下した竜りょう馬ま※1 Schultz AB, et al. J Occup Rehabil, 2007.※2 Collins JJ, et al. J Occup Environ Med, 2005.※3 Nagata T, et al. J Occup Environ Med, 2018.※4 簑輪眞澄ほか 厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「平成11年度研究業績報告書」テーマ 1スポーツで社員を健康に ①

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