エルダー2020年7月号
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特集スポーツと健康と高齢者エルダー13常にスマートフォンを使用する労働者が多く見られ、これにより眼精疲労や肩こりなどの身体上の問題がより大きくなっています。また、ある調査では、日常的に疲労を感じている労働者の割合は約6割におよび、そのうち約4割が6カ月以上も疲労を感じたまま生活を送っていると報告されています※4。このように、慢性疲労は医学的な問題のみならず、経済損失の観点からも大きな社会問題であり、職場におけるメンタルヘルス対策も労働生産性の保持・増進の視点から取り組むべき喫緊の課題と考えられます。このような現状に鑑かんがみ、休み時間にゲームやメールをしている時間を運動に代えることにより、健康への意識が高まり、勤務中や余暇時の身体活動量が増加して労働者の身体的な健康の保持・増進効果が見込めるのではないか。さらに、労働者が職場内で一緒に運動することは、職場のコミュニケーションを良好にし、上司や同僚からの支援が得られやすくなり、その結果、メンタルヘルスや活力、労働生産性の向上に貢献できるのではないかと考えました。アクティブレストプログラム本プログラムを導入した企業では、昼休みに10分間の運動を週に3~4回、部署単位で実施してもらっています。われわれが導入してきた運動は、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドローム※5の予防、運動実践のきっかけづくりを目的に、一般社団法人10分ランチフィットネス協会が考案した体操です。身体ほぐし運動~脳機能向上トレーニング~有酸素運動~レジスタンス運動~整理運動を10分間という短時間に実施できるプログラムになっています(﹁10分ランチフィットネスⓇ﹂https://10mlf.com)。活動量計を用いて、女性インストラクター14人の運動強度を測定した結果、10分間の平均運動強度は1・9メッツ※6、身体ほぐし運動1・6メッツ、有酸素運動3・2メッツ、レジスタンス運動1・5メッツ、整理運動1・3メッツであり、軽く汗をかく程度で普段着のまま、体力に自信のない人や高齢者でも気軽に実施できる運動になっています(図表1)。これまでに多くの方が体験済みであり、運動の安全性についても確認されています。アクティブレストの効果1  メンタルヘルス、職場の活性化、プレゼンティーズム改善に対する効果まず、職場単位で行うアクティブレストが労働者のメンタルヘルス、職場の活性化、プレゼンティーズムの改善におよぼす効果を検証したところ、8週間の介入後、運動介入群※7で職業性ストレス簡易調査の﹁職場の対人関係上のストレス﹂、﹁活気﹂、﹁上司、同僚、家族や友人からの支援度﹂、﹁身体愁しゅう訴そ﹂の改善効果が認められました。さらに、職場活性度の指標であるワーク・エンゲイジメント※8の﹁活力﹂、プレゼンティー※5 ロコモティブシンドローム……骨や筋肉などの運動器の障害により歩行などの機能が低下した状態※6 メッツ……安静座位を基準として、安静時の何倍の強さに相当するのかを評価する運動の単位※7 運動介入群…… 研究のために、健康に影響があると思われるさまざまな要素を試験的に実施した人たちのこと。本稿では「運動介入群=アクティブレストを行い、その効果を検証した人たち」、「観察群=アクティブレストを行わず、データのみを検出した人たち」をさす※8 ワーク・エンゲイジメント……従業員の仕事に対するポジティブで充実した心理状態のこと身体ほぐし運動有酸素運動レジスタンス運動整理運動1.6±0.3メッツ3.2±0.8メッツ1.5±0.2メッツ1.3±0.1メッツ00:040.51.01.52.02.53.03.54.04.5メッツ時間(分:秒)00:2400:4401:0401:2401:4402:0402:2402:4403:0403:2403:4404:0404:2404:4405:0405:2405:4406:0406:2406:4407:0407:2407:4408:0408:2408:4409:0409:2409:44出典:著者研究資料図表1 10分ランチフィットネスⓇの運動強度加速度センサーつき活動量計を用いて、女性インストラクター14名(平均年齢46.3歳)の運動強度を測定

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