エルダー2020年7月号
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特集スポーツと健康と高齢者エルダー15がら仕事に支障をきたすプレゼンティーズムの一因となります。この結果は、職場で運動することは、労働者の睡眠の質を向上させ、それがプレゼンティーズムの改善をもたらす可能性を示しています。3 腰痛軽減に対する効果作業姿勢が長時間固定されるタクシーやバス、トラックなどの大型車、農業トラクターなどの特殊車両に乗務する運転手では腰痛の有訴率が高いことが知られており、慢性腰痛は職業運転手にとって労働安全衛生上の重大な問題です。そこで、慢性腰痛に着目し、タクシー運転手を対象にしたアクティブレストが腰痛軽減におよぼす効果を検証しました。10週間の介入後、脚筋力、柔軟性、腰痛の程度は運動介入群で有意に改善し、短時間であっても職場で運動することは、タクシー運転手の脚筋力や柔軟性向上、腰痛軽減に有効であることが明らかになりました(図表4)。作業姿勢が長時間固定される運転業務は、頸部・肩甲帯から腰部にわたる局所の著しい筋緊張をともない、長期間の座位行動は筋力低下を引き起こします。したがって、わずか10分の短時間であっても、本プログラムのような複合的な運動を行うことは、職業運転手の脚筋力や柔軟性を向上させ、その結果、腰痛軽減に良好な効果をもたらす可能性があると考えられます。おわりに今回、アクティブレストプログラムの概要とその効果について紹介しました。本プログラムの参加者へ自由記載のアンケートを行ったところ、﹁体を動かす機会が増えた﹂、﹁普段交流のない他部署の社員と会話する機会が増えた﹂、﹁午後の仕事にもすぐに臨めるようになった﹂など、本研究の成果を裏づけるようなコメントを多くいただけました。高齢化が進む日本では、健康寿命延伸や医療費増加の抑制は喫緊の課題であり、そのためには中年期からの健康づくりが重要と考えられます。残念ながら東京五輪は延期となってしまいましたが、日本の運動・スポーツに対する関心はこれまでにない高まりをみせています。しかし、運動には体力向上、生活習慣病やメンタルヘルスの改善など多くの効果が確認されているにもかかわらず、実際に運動を習慣化し、継続できている人はわずかです。労働者の健康保持・増進、運動習慣獲得のためには、運動しやすい環境を整え、運動時間を確保することが重要です。ゲームやメールをするのではなく、職場内で体操やウォーキングを行うなど、昼休みの過ごし方を見直してはいかがでしょうか。30秒椅子立ち上がり(回)30介入前10週後25201510良悪座位体前屈(cm)10介入前10週後0-10-20悪良腰痛の程度;VAS(cm)8.0介入前10週後6.04.02.00-2.0悪良出典:森晃爾、ほか。労働安全衛生総合研究事業 平成30年度研究報告書図表4 アクティブレスト導入による身体機能の改善、腰痛軽減効果10週間の運動介入により身体機能の筋力、柔軟性が向上し、腰痛が軽減上から30秒椅子立ち上がりテスト(筋力)、座位体前屈(柔軟性)、Visual Analog Scale(VAS)で評価した腰痛の程度●; 運動介入群、□; 観察群. ; p<0,05、介入前後の比較. †; p<0.05、時間×群の交互作用

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